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「若者に減税を」格差に警鐘、アベノミクスと一線画す ピケティ氏会見

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「若者に減税を」格差に警鐘、アベノミクスと一線画す ピケティ氏会見

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記者会見する「21世紀の資本」の著者、トマ・ピケティ氏=2015年1月31日、東京都千代田区(蔵賢斗撮影)  経済の専門書としては異例の世界的なベストセラーとなっている、格差拡大について論じた「21世紀の資本」の著者でフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏(43)が31日、都内の日本記者クラブで記者会見し、日本経済について「低成長の中で格差が広がっている」と警鐘を鳴らした。ピケティ氏は「若い世代を利する税制改革を行うべきだ」と述べ、高所得者ほど課税が重くなる累進課税の強化の必要性を強調。昨年4月の消費税率引き上げのほか、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の柱の一つである法人税の実効税率引き下げに否定的な見解を示した。ピケティ氏の主張は国会論戦でも取り上げられており、一段と関心が高まりそうだ。

 アベノミクスと一線

 「低所得者の所得の伸びよりも、高所得者の所得の伸びが大きいことが実感できるから、格差が問題視されている」

 ピケティ氏は、自らの著書がベストセラーとなっていることをこう分析し、「(日本のような)低成長の国では所得が伸びず、さまざまな緊張を生んでいる」と指摘した。

 ピケティ氏によると、日本では上位10%の高所得者層が全所得の約40%を占有し、欧州よりも格差が拡大しているという。このため、格差の解消には、「若い世代への課税を軽くし、高所得者層への課税を重くすべきだ」と述べ、所得税の累進課税のほか、不動産や株式といった資産への課税の強化を主張した。

 消費税増税については「日本の成長にはあまりいい結果を生んでいない」と指摘。法人税の実効税率の引き下げについても、企業誘致のため各国が減税を競い、国際展開する大企業だけが優遇されていると批判。「日米欧で共通の法人税をつくり、多国籍企業には最低税率を設けるべきだ」と提案した。

 また、大企業や富裕層が潤えば、富があふれて滴り落ちて経済全体に行き渡るという「トリクルダウン」理論に対して、「我慢すれば万人に恩恵が広がるという保証はない」と否定し、アベノミクスの考え方と一線を画した。

 高い注目、会見に300人

 この日の会見には報道陣や研究者ら約300人が集まり、注目の高さを裏付けた。「21世紀の資本」は、20カ国以上の経済データから富の分配や格差が生まれた背景を明らかにし、資本主義の下では格差が広がりやすいということを分かりやすく解説した。昨年12月には日本版も発行され、税込み5940円の高価な専門書としては異例の13万部を突破した。

 ピケティ氏が格差解消の処方箋として主張する累進課税の強化については国会でも議論され、安倍晋三首相が「執行面でなかなか難しい面もある」と発言した。

 一方、アベノミクスを批判する民主党の岡田克也代表と1月30日に会談。ピケティ氏はアベノミクスの第1の矢である大規模金融緩和について、「紙幣を印刷するだけでは不平等が拡大してしまう」と指摘し、“意気投合”した。(SANKEI EXPRESS

 ■「21世紀の資本」 膨大なデータを用いて資本主義社会における格差拡大の仕組みを説明し、格差是正のための政策を提案する経済書。2013年、フランスで刊行。14年4月、米国の出版社から英語版が刊行されるとブームが急激に広がった。現在ではドイツ語やロシア語、中国語、韓国語など30を超す言語に翻訳され、累計150万部を超すベストセラーとなった。

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