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【坂上忍の白黒つけて何が悪い!】元気になって何かしたくなるのよ

 元気になる映画である。忘れかけていたモノを思いださせてくれる映画である。この映画を見ると音楽が聴きたくなる。CDを買いたくなる。プラモデルでも何でもいいからモノを作ってみたくなる。恋をしてみたくなる。海外旅行に行きたくなる…っつうか、海外に住みたくなる。コレ、わたしなりの最高の褒め言葉。

 酒浸りの音楽プロデューサー(マーク・ラファロ)。妻(キャサリン・キーナー)とは別居状態。自分がオーナーだった会社からもクビを宣告されてしまう。一方、人気ミュージシャンの彼(アダム・レヴィーン)を持つ女の子(キーラ・ナイトレイ)。しかし、彼氏が仕事先で女性スタッフに手をつけてしまい、あえなく破局…。そんな2人が、とあるBARで出会う。

 低予算でも良品

 物語はそこから転がり始め、いわゆるサクセス・ストーリー&ハッピーエンド。構成としては、ごくごく単純なんでございます。が、なんなんだろう。とにかくいいのよね。何がいいって、まずは主演の2人が。ナイトレイは、その美貌をひけらかすことなく、どこにでもいるような夢見る女の子をサラリと演じている。ラファロは、過去の栄光をどこか忘れられず、一方で厳し過ぎる現実を受け止めつつ、その狭間(はざま)でもがき苦しむ様を絶妙な力の抜き加減で好演。

 恵まれた予算で製作された作品ではないにもかかわらず、そのシンプルさが逆に人物を引き立て、主人公の2人に感情移入しやすくなっている。予算が潤沢なら、いい映画が撮れるわけではない。限られた予算でも、知恵を絞り、訴えたいことが明確であれば、良質な作品は撮れるのだ…の見本のような映画かな。

 監督の愛情が見える

 脚本・監督は、「ONCE ダブリンの街角で」(2007年公開)のジョン・カーニー(43)。この監督さん、死ぬほど音楽が好きなんでしょうね。で、死ぬほど人が好きで、死ぬほど映画が好きで…。だってね、音楽の使い方がアッパレなんですよ。わたし、ミュージカルが大の苦手で、ミュージカル映画は一切興味がなくて。でも、この作品は見方を変えればミュージカル映画なのです。なのに、なんのわざとらしさも嫌みもない。

 そんでね、登場人物が隅から隅まで生きてるんですよ。新たにバンドを組んでメンバーを集めるんですよ。でも、集まったメンバーの中にはほとんど台詞(せりふ)がない役者さんがいたり、楽器を弾いてるだけみたいな子もいるわけ。なのに、いい味を出してるのよね~。かわいいというか、愛したくなるというか。登場人物が生きている。監督が一人一人にちゃんと愛情を持って生かしてるんですよね。ってことはね、映画を愛してるというか、映画というモノ作り作業から離れられない人なんだろうな~と。映画という魔物に魅せられちゃったんでしょうね。

 理屈はいらない

 「はじまりのうた」は、元気になって忘れかけていたモノを思いださせてくれて、音楽が聴きたくなって、CDを買いたくなって、プラモデルでもなんでもいいからモノを作ってみたくなって、恋をしてみたくって、海外旅行に行きたくなるだけでなく海外に住みたくなる…映画である。映画って、これでいいんだよね。何でもいいから、何かがしたくなるような衝動を見てくださった方々に与えられれば、感じてもらえれば、作り手にそれ以上の喜びなんてない。見る側にとっても、それ以上の感動なんてない。だって、娯楽なんですから。要は、理屈じゃないってことなのかな。なんか、恋愛と似てるような…。恋、しないとダメですな。みんなで恋、しちゃいましょう!(俳優、タレント 坂上忍/SANKEI EXPRESS

 【STORY】

 ミュージシャンのデイヴ(アダム・レヴィーン)と恋人のグレタ(キーラ・ナイトレイ)はニューヨークでメジャーデビューを果たし、2人で作った曲は映画主題歌に選ばれた。ほどなく、デイヴの浮気が発覚。グレタは失意のまま臨んだミニライブで、落ち目の音楽プロデューサー(マーク・ラファロ)の目にとまり…。米アカデミー賞歌曲賞に輝いた「ONCE ダブリンの街角で」のジョン・カーニー監督が手掛けた音楽映画第2弾。オリジナル曲をギターを弾いて歌ってみせたナイトレイの新境地は必見だ。2月7日、全国公開。

 ■さかがみ・しのぶ 1967年6月1日、東京都生まれ。俳優、タレント、歌手、映画監督、演出家とマルチに活躍。3歳より劇団に所属。多くのテレビドラマに子役として出演し「天才子役」と呼ばれた。40代半ばを迎えてから、歯に衣着せぬ、正直な物言いがお茶の間のテレビ視聴者の心をとらえて大ブレーク。レギュラー番組9本、準レギュラー3本、雑誌連載4件を抱える超売れっ子に。著書に「力を引き出すヒント」(東邦出版)。2月7日に東京・有楽町の三省堂書店でサイン本お渡し会開催。

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