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政治
【安倍政権考】総連本部転売 「無関心」の訳は
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別の不動産業者への転売が決まった在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビル(中央)=2014年11月5日、東京都千代田区(蔵賢斗撮影) 政府は、不動産業者が競売で落札した在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルが別の業者に転売され、朝鮮総連がそのまま入居し続ける見通しとなり、胸をなで下ろしている。表向きは競売・転売への関与を完全に否定し無関心を装っているが、実は拉致被害者らの救出を目指す日朝協議を通じ、北朝鮮から継続使用を強く要求されて対処に困っていたからだ。ただ継続使用は交渉カードとして使える一方、税金を投じた不良債権問題で競売が行われた本部ビルに朝鮮総連がそのまま居続けることに国民の理解は得られそうにない。このため、政府内では継続使用の是非について肯定も否定もできず複雑な思いが交錯している。
本部ビルは約22億円で高松市の不動産業「マルナカホールディングス」が落札したが、山形県の不動産会社に約44億円で転売する契約が先月末、結ばれた。今回の契約は、四国で不動産業を営み、マルナカの前社長とも親しい山内俊夫元参院議員(68)が仲介した。かつて自民党に在籍したこともある元政治家が介在したことで、政府関与の見方が浮上した。
菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は1月23日の記者会見で、こうした疑念を払拭するかのように本部ビルをめぐる動きについて「裁判所による競売手続きを経て、マルナカホールディングスに移転した。後は民間のことだから、それ以降について政府として承知していない」と関与を否定した。外務省や情報機関関係者も異口同音に否定している。
政府が関与否定に躍起になるのには理由がある。競売は、破綻処理で多額の公的資金が投じられた在日朝鮮人系信用組合の不良債権問題に絡み、朝鮮総連への約627億円の債権を引き継いだ整理回収機構が申し立てたもの。仮に政府が建物の継続使用に向け朝鮮総連側に何らかの便宜を図っていたとすれば、無駄な税金投入だったとの批判を招きかねない。
民主党の野田佳彦政権は拉致問題解決に向けた日朝協議を進めるため、本部ビルの競売回避をめぐって朝鮮総連と秘密裏に協議していた経緯がある。ただ、こうした動きは政権交代のためいったん白紙に戻っていた。
結局、日本政府の関与の有無とは無関係に朝鮮総連が本部ビルを継続使用することで、北朝鮮が訴え続けてきた要求が実現したことになる。このため、政府内では安堵(あんど)の表情を浮かべる関係者もいた。というのも、昨年「夏の終わりから秋の初め」で合意していた初回報告がほごにされ、日朝協議が遅々として進展せず北朝鮮が交渉を打ち切る可能性も否定できない状況に陥っていたからだ。政府として民間取引後の継続使用を容認することで、新たな交渉の糸口を探ることもできると踏んだわけだ。
だが、政府内では継続使用について「朝鮮総連の既得権益が単に維持されただけで、北朝鮮が新たな利益を得ることにはならない」(政府関係者)として、プラス材料にはならないとする分析もある。
また競売物件を債務者や、債務者をバックにした業者が買い戻す行為は「その資力があれば弁済に充てるべきだ」との理由で民事執行法によって禁止されている。ただ、落札後の転売で物件の継続使用を想定した規定はなく、継続使用は、いわば法律の抜け穴をつくケースだったといえる。
このため、「血税を使った不良債権問題で、債務者が立ち退かずに入居し続けることに国民の理解が得られるはずもない」(政府高官)との見方も根強く、政府は複雑な思いを抱えながら北京の大使館ルートで日朝協議を続けることになりそうだ。(比護義則/SANKEI EXPRESS)