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【拉致再調査】「拉致問題が最重要」 政府代表団、北と協議 姿見せた秘密警察高官 異例の「誠意」
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日本政府代表団と協議する北朝鮮の徐大河(ソ・デハ)・特別調査委員長(左から2人目)=2014年10月28日午前、北朝鮮・首都平壌市(共同) 北朝鮮の特別調査委員会による拉致被害者らの再調査の実態を把握するため、平壌入りした外務省の伊原純一アジア大洋州局長(58)をトップとする日本政府代表団は28日、調査委トップの徐大河(ソ・デハ)委員長ら調査委幹部と協議した。代表団は「拉致問題が最重要課題だ」との安倍晋三政権の方針を徐氏らに直接ぶつけ、拉致被害者らの調査を迅速に実施し、その結果を一刻も早く報告するよう求めた。
協議後、取材に応じた伊原氏によると、午前には、調査結果の報告を迅速に行うよう求めるとともに、調査委の体制や調査の現状について説明を受けた。
午後は、徐氏と同じく拉致被害者らの情報管理に深く関わっているとされる秘密警察の国家安全保衛部幹部で、調査委副委員長の金明哲(キム・チョンチョル)氏や拉致被害者分科会責任者の姜成男(カン・ソンナム)氏らから拉致被害者と行方不明者の調査現状を重点的に聞いた。調査委側からの説明について、伊原氏は「詳細は帰国して首相に報告したい」と述べるにとどめた。
協議冒頭、徐氏は「皆さんの訪朝に関し、日本で食い違った主張がいわれている」と前置きしながらも、代表団訪朝を「朝日合意を履行しようとする日本政府の意思の表れとしてよい選択だった」と評価した。
≪姿見せた秘密警察高官 異例の「誠意」≫
日本政府代表団との協議で、北朝鮮の特別調査委員会は、トップの秘密警察高官を含め、全ての責任者が顔をそろえ、日本メディアの前に姿をさらすという異例の対応に出た。拉致被害者ら日本人調査に取り組む「誠意」を日本世論にアピールすることで、協議を北朝鮮ペースに持ち込もうとの思惑がにじむ。
「徐大河と申します。委員長を務めています」
28日午前、調査委庁舎の玄関で、副委員長2人と軍服姿で外務省の伊原純一アジア大洋州局長らを出迎えた徐大河委員長は、握手の手を差し伸べながら、こう自己紹介した。中国や欧米の現地駐在メディアも代表団を待ち構えていた。北朝鮮側が手配したとみられ、海外に向けた宣伝姿勢をのぞかせた。
庁舎は平壌中心を流れる大同江(ソドガン)沿いの道路に面した2階建て。玄関には「特別調査委員会」の真新しい金看板が掲げられていた。日本人調査が外国人管理に関わるためか、「出入国事業局」も入居している。
北朝鮮ガイドは、調査委事務所は「日本人調査の重要さを示すために設けられた」と説明した。ただ、手狭な上、職員らが日常的に使っている様子はなく、「象徴」のための建物との印象が拭えなかった。
代表団を委員長室に案内してからも、徐氏は「遠いところ、大変ご苦労さまでした。多少窮屈ですが、ご理解ください」と気遣いを示した。
徐氏をはじめ、調査委幹部の多くは、7月のメンバー公表後も素性が謎に包まれていた。特に秘密警察の国家安全保衛部副部長でもある徐氏や副委員長の金明哲保衛部参事、拉致被害者分科会責任者の姜成男保衛部局長は、秘密警察幹部という特性上、公の場での姿が確認されていなかった。
2002年に小泉純一郎首相と金正日(ジョンイル)総書記の首脳会談を調整したとされる当時の柳敬(リュ・ギョン)保衛部副部長も日本側から「ミスターX」と呼ばれ、自ら素性を明かすことはなかった。
海外のテレビカメラ前に軍服姿でわざわざ姿をさらした徐氏は70歳前後とみられ、小柄な体格。代表団とのあいさつでは低姿勢に徹し、国内で反体制者を次々と粛清してきた機関の高官との印象を消していた。大きな星1つの肩章を付けていたことから朝鮮人民軍少将の階級にもあるようだ。
消息筋によると、徐氏や姜氏は保衛部内でも特にエリートが就く海外工作を担当しているとされる。保衛部は現在、朝鮮労働党幹部に対する広範囲の盗聴監視に乗り出し、党幹部からの反発が予想されている。一方で、6月以降、ロシアや中国で続いた要人失踪事件をめぐり、管理責任を問われる事態ともなっている。
“内憂外患”を抱える中、徐氏ら幹部は、対日協議でも失敗を許されない立場に置かれている。このため、調査に対する真剣さを強調し、対日交渉をつなぎ止めようとはしても、拉致再調査で責任を追及されかねない踏み込んだ結果を提示するかは疑わしい。(平壌 桜井紀雄/SANKEI EXPRESS)