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【拉致再調査】拉致被害者12人 改めて調査 徐大河委員長、軍階級と肩書に矛盾
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日本政府代表団との協議に向かう北朝鮮・特別調査委員会の徐大河(ソ・デハ)委員長(手前)。大きな星1つの肩章が朝鮮人民軍の少将であることを示している=2014年10月28日、北朝鮮・首都平壌市(代表撮影) 菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は31日の記者会見で、拉致被害者らの再調査をめぐる平壌での政府代表団と北朝鮮特別調査委員会の協議について、北朝鮮側から拉致被害者12人の入国の有無や生活状況などを改めて個別に調べるとともに、被害者に関する新たな証人や物証を探していると説明があったことを明らかにした。
安倍晋三首相(60)は31日の衆院地方創生特別委員会で、日朝協議に関し「北朝鮮はゼロベースで調査を始めるものと理解している」と指摘した。
菅氏は会見で、北朝鮮側による最初の報告時期について「常識的には年内」との認識を示した。さらに、政府代表団の平壌派遣の意義を「拉致問題解決に向けた日本の強い決意を北朝鮮の最高指導部に伝えることができた」と強調した。
菅氏によると、拉致被害者を含め再調査の現状について、北朝鮮側は「これから調査を深めていく段階で、途中段階で臆測を招くような説明は避ける。現時点で客観的な資料を発見できていない」と述べた。日本人遺骨問題に関しては、北朝鮮側は「新たな埋葬地の発見に努めている」と説明。日本に制裁の緩和を求める発言はなかった。
政府は31日、拉致被害者家族と自民党拉致問題対策本部に、日朝協議の結果をそれぞれ報告した。
自民党会合での政府関係者の説明によると、北朝鮮側が協議で拉致被害者の安否に関する2002年と04年の調査について「時間的な制約があり、一部の機関による決定だった。だから科学的物証や証人について再調査する」と釈明していたことが新たに判明。拉致の可能性を排除できない特定失踪者に関し「調査委が拉致の可能性があると判断した時点で拉致分科会に送り、調査したい」と伝えてきたことも分かった。
一方、家族会の飯塚繁雄代表(76)は政府説明会の冒頭、「(今回の協議で)拉致被害者に関する報告が全くなかったのは非常に残念。報告内容を政府がきちんと分析、判断して早く次の手を打ってほしい」と不満を表明した。
政府側は、協議で日本政府代表を務めた伊原純一外務省アジア大洋州局長(58)や、山谷えり子拉致問題担当相(64)らが出席。北朝鮮の特別調査委員会の態勢などを説明した。伊原氏は、今後の協議の日程について「決まっていない」と述べたという。
終了後取材に応じた飯塚代表は、拉致被害者に関する情報は再調査をするまでもなく北朝鮮が把握しているはずだとの認識を示し、「いまさら白紙に戻す、はないだろう」と疑問を呈した。
≪徐大河委員長、軍階級と肩書に矛盾≫
拉致被害者に関する新たな情報を得ることなく、日本政府代表団の訪朝は終わった。逆に北朝鮮の特別調査委員会に関していくつかの疑問が浮かび上がっている。徐大河(ソ・デハ)委員長の朝鮮人民軍での階級と国家安全保衛部での肩書の矛盾や調査委が入る建物の狭さ…。それらの疑問からは、調査委の権限の不確かさや訪朝を宣伝に利用しようとした北朝鮮の意図がみえる。
政府代表団との協議が始まった10月28日、外務省の伊原純一アジア大洋州局長らを出迎えた徐委員長の軍服には、大きな星1つの肩章が付いていた。その肩章は、徐委員長が朝鮮人民軍の少将であることを示していた。
徐委員長は秘密警察である国家安全保衛部の副部長を務めているとされる。だが、31日に伊原局長らから説明を受けた拉致被害者の支援組織「救う会」の西岡力(つとむ)会長は、北朝鮮の元工作機関幹部から聞いた話として、軍での階級と保衛部での肩書が符合していないことを指摘する。
元幹部の説明では、保衛部の部長は大将、副部長は上将、副部長の下の局長が中将の階級になっており、少将が保衛部の副部長であるはずはないという。西岡会長は「特別調査委員会なるものに権限はなく、形式的なものであることを意味している」と指摘し、期限を切って北朝鮮に拉致被害者に関する報告を求め、「回答がない場合は再制裁や交渉を白紙化するよう通告すべきだ」と話す。
北朝鮮は今回、報道機関に調査委が入る建物内部の様子を公開した。「調査委」を示す看板や、各分科会の部屋に掲げられた看板はハングルのほか英語でも表記されており、北朝鮮が外国に向け、調査に取り組んでいることを宣伝しようとの意図がうかがえる。
だが、建物をめぐっても疑問が浮上。調査委は北朝鮮の最高指導機関の国防委員会から「特別な権限」を付与されているはずだが、そのトップである徐委員長の部屋は20人も入れば窮屈さを感じるほどだ。
さらに、調査の実務を行っているほかの部屋は、徐委員長の部屋よりもさらに狭いとみられるという。
拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」の荒木和博代表は今回の訪朝を「調査をやっているという北朝鮮のパフォーマンスだろう」とみて、「この交渉は打ち切って、制裁をかけ直したほうがいいのではないか」と指摘する。(SANKEI EXPRESS)