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忘却からよみがえった楽曲たち 「四季」とバロック音楽 月刊音楽情報誌「モーストリー・クラシック」4月号
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「四季」で日本人をバロック音楽に誘ったイ・ムジチ合奏団。(C)Tommy_Della_Frana 「四季」や「G線上のアリア」、「オンブラ・マイ・フ」などの名曲を一度は耳にしたことがあるはず。月刊音楽情報誌「モーストリー・クラシック4月号」は「『四季』とバロック音楽 ヴィヴァルディ バッハ ヘンデル」を特集、バロック音楽の魅力を探っている。
ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲集「四季」は、1725年に出版された「和声と創意への試み」と題する作品8の第1曲から第4曲までの4曲。「春」「夏」「秋」「冬」と標題があり、それぞれは3楽章で、ソネット(14行詩)が付けられている。
「春」の詩の冒頭は「春が来た。小鳥たちはうれしそうに歌い、春にあいさつする。西風のやさしい息吹に、泉はやさしくざわめきながら流れ出す」。イタリアと日本の季節感の違いはあるが、確かに四季を感じさせるメロディーが日本人をとりこにした。
日本でバロック音楽に目を向けるようになったきっかけの一つが「四季」の流行。イタリアのイ・ムジチ合奏団は1955年にはじめて「四季」を録音。同じ時期にカール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管も録音している。
イ・ムジチ合奏団だけで、その後、59、69、82、88、95年と6回も「四季」を録音し、合計約300万枚の大ベストセラーになっている。音楽評論の許光俊氏が「四季」のCDの聴き比べを行っている。カラヤン、バーンスタイン、アバド、ストコフスキーらかつての巨匠たちの演奏を、「こうした人々は、バロック音楽の様式にことさら興味を示さないのが常で、自分流で押し切る。だから時代錯誤かもしれないが、妙なおもしろさが出てくることも事実だ」と評す。
バッハの「トッカータとフーガ」、ヘンデルの「水上の音楽」、パッヘルベルの「カノン」などバロック音楽の心地よいメロディーはテレビやCMなどで使われることが多い。
たとえば「オンブラ・マイ・フ」は、ヘンデルのオペラ「クセルクセス」の第1幕で、ペルシャ王クセルクセス1世が歌うアリア。オペラは今日、ほとんど上演されないが、以前は「ヘンデルのラルゴ」として親しまれてきた。一般に知られたのは86年、ニッカウヰスキーのコマーシャルでアメリカのソプラノ、キャスリーン・バトルが歌い大ヒットしてから。本来の「オンブラ・マイ・フ」のタイトルも広まった。
バロック音楽は、一部の作曲家の作品を除き、長い間忘れられた存在だった。「バロック音楽という用語が用いられるようになったのは20世紀初期からである。バッハは忘却からよみがえった音楽家であるが、バロック音楽も同様である」と西原稔・桐朋学園大教授は指摘する。たとえば、ヴィヴァルディの没年の月日がやっと判明したのは38年だ。
バロック音楽の“再発見”は、作曲当時の楽器を使い、演奏法を再現する古楽奏者たちの存在が大きい。さきがけとなった一人は、ニコラウス・アーノンクール。53年にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを結成し、現在まで第一線で活動を続けている。
今日では、ヨーロッパにおいて、バロック・オペラは普通に上演されるようになった。また鈴木雅明が音楽監督を務めるバッハ・コレギウム・ジャパンのようにヨーロッパで高く評価される日本の演奏家も出現している。(月刊音楽情報誌「モーストリー・クラシック」編集長 江原和雄/SANKEI EXPRESS)