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科学
検証続く「進化論」 サルはどこまで人間か
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ちょっと怖そうにブランコ遊びをする子ザル=2015年1月19日、大分県大分市神崎の高崎山自然動物園(唐木英明さん撮影) 私の専門は、獣医学、薬理学、食品安全などだが、その基礎は「生物学」である。生物学の唯一の統合的理論が1859年にチャールズ・ダーウィンが唱えた「進化論」だが、その詳細については現在も検証が続いている。
進化論とは、環境に最も適応した生物が選択されて生き残り、多くの子供を残して親の性質を次世代に伝えていくというもので、これを「自然選択」と呼ぶ。この理論で多くの生物の進化が説明できるが、説明できないものもある。たとえば働き蜂は子供をつくらず、女王蜂のために働く。しかし、自分の子供をつくらなければ、働き蜂になるという遺伝子も滅びてしまうはずだ。
そこで出てきたのが「選択されるのは遺伝子であり、個体は遺伝子の乗り物に過ぎない」という逆転の発想で、リチャード・ドーキンスが1976年に執筆した『利己的な遺伝子』(日本語訳は1991年)の考え方だ。働き蜂が自分の子供を作らなくても、同じ遺伝子を持つ姉妹が女王蜂になってたくさんの子供を作れば、自分の遺伝子を増やすことができる。一見利他的な行動が、実は自分のためだというこの考えに、私を含めて多くの人が影響を受けた。
≪サルのふり見てわがふり直せ≫
1991年に出版されたジャレド・ダイアモンドの『人間はどこまでチンパンジーか?』(日本語訳は93年)も私に大きな影響を与えた本の一つだ。人間とチンパンジー、ゴリラ、オランウータンの遺伝子はそれほど違わない。しかし、遺伝子を残すための繁殖行動をみると、ゴリラは最強の雄がハーレムを作り、チンパンジーは群れの中で雄と雌は自由に交尾し、オランウータンは単独生活をして交尾の時だけ雄と雌が出合い、人間は一夫一婦の生活をしている。
人間も大昔はハーレムを作っていたが、男女とも自由に愛し合う乱交の時代を経て、現在の一夫一婦に進んだと考えられている(今もハーレムや乱交がないわけではないが例外とする)。なぜ一夫一婦となったのか。これは人間とは何か、男と女とは何かを考える上でも重要な問題だが、答えを知りたければこの本を読んでいただきたい。
私自身はサルの研究をしていないが、生物学のすべてが進化論の研究とも言うことができる。そして、進化論がまだ発展段階にあるからこそ、空想の余地が大きくて楽しく、その人間への敷衍(ふえん)は社会的影響が大きいから議論の対象になる。
サルの行動からどこまで人間が理解できるのかはさておいて、サルの子供は人間の子供とそっくりだし、サルが示す喜怒哀楽は人間のパロディーに見えることは確かだ。サルを見て人を知る、「サルのふり見てわがふり直せ」ということだろうか。(東京大学名誉教授 唐木英明、写真も/構成:文化部 平沢裕子(SANKEI EXPRESS)