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政治
【安倍政権考】総連トップ 遂に「居座り宣言」
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約8年ぶりの北朝鮮訪問を終えて帰国した朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長=2014年10月7日、東京都大田区・羽田空港(共同) 沈黙を守ってきた在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長がとうとう、競売の落札後に転売された総連中央本部ビル(東京都千代田区)の継続使用を周囲に宣言した。公安関係者によると、「今後も使用できるようになった」と明言したという。退去は時間の問題とみられていたのが一転、継続使用を目指す朝鮮総連の戦術が奏功した形だ。許氏は昨年9月、競売問題を抱えたまま訪朝したが金正恩第1書記(32)と会えず、求心力が低下していた。継続使用が確実となった成果をアピールし、政治的基盤の再強化と北朝鮮での復権を図るものとみられる。
総連本部競売問題をめぐっては、破綻した在日朝鮮人系信用組合から約627億円の債権を引き継いだ整理回収機構が申し立てを行い、東京地裁が2012年に競売開始を決定した。2回目の入札でモンゴル企業が約50億円で落札したが、書類不備のため資格喪失となった。
地裁は次点だった不動産業「マルナカホールディングス」(高松市)に売却を許可し、昨年11月に所有権が移った。
ところが、今年1月28日付で不動産会社「グリーンフォーリスト」(山形県酒田市)に所有権が移転した。
関係者によると、許氏は、本部ビルの所有権が「グリーンフォーリスト」に移った直後、「私の言った通り、今後も使用できるようになった。任せてほしい」と複数の幹部らに相次いで語った。さかのぼって昨年末には秘密裏に京都と大阪を訪問、競売問題について総連傘下の商工人らに「解決できる」「信じてほしい」などと述べ、継続使用を目指し水面下で自信を持って交渉を進めていることも打ち明けていた。
所有権が移った1月28日、本部の土地・建物には朝鮮総連の関連団体が入居する東京都文京区の朝鮮出版会館を所有してきた「白山出版会館管理会」を権利者、「グリーンフォーリスト」を債務者とする極度額50億円の根抵当権も設定された。白山出版会館管理会はその数日前に朝鮮出版会館を大阪市内の不動産業者に売却している。
ただ、白山出版会館管理会は昨年12月15日に突然、「朝鮮出版会館管理会」から社名を変更していた。現在の役員には総連幹部や北朝鮮の元最高人民会議代議員が名を連ねていることから、公安関係者は「社名変更は、対外的に朝鮮総連との関係性を薄めようと画策するカムフラージュ工作にほかならない」と分析する。こうした工作を指揮してきた許氏は、総連結成60周年を迎える5月の記念イベントを通じ、本部継続使用の成果を公に誇示するとみられる。
一方、自民党の山本一太・前沖縄北方相(57)ら有志議員は2月5日、菅義偉(よしひで)官房長官(66)に転売問題の経緯調査と適切な対応を申し入れた。これに対し政府は、拉致被害者の再調査を行う北朝鮮の特別調査委員会が発足して1年になる今年7月までは北朝鮮に刺激を与えず静観する構えだ。
ただ、これまでの北京の大使館ルートを通じた日朝間のやりとりや、水面下の非公式協議を並行して続けてきたが、回答が見込める感触すら得られていないのが現状だ。拉致問題の解決は安倍晋三政権の最優先課題のため、政府内では「『成果はありませんでした』では済まされない」(内閣官房幹部)との声も出ている。
また、拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」が1日、都内で合同会議を開き、3月末を北朝鮮からの最初の報告期限に設定するよう求めるなど、政府への圧力は強まっている。
結局、日朝交渉で北朝鮮が求めていた総連本部の継続使用は実現した。逆に、拉致問題は進展が見通せないままだ。その上、北朝鮮は2日、日本海に向けて短距離弾道ミサイルを発射した。
これでは、政府は北朝鮮に翻弄されている印象が際立つだけだ。(比護義則/SANKEI EXPRESS)