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社会
【東日本大震災4年】色失った故郷 タイルで彩りたい
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3月21日のJR女川駅再開の時に売り出された石巻線の列車をデザインしたスペインタイル。限定50個、木枠額入りで4000円=2015年、宮城県牡鹿郡女川町(鈴木健児撮影) 東日本大震災は11日で4年を迎えた。住まいや道路の復旧は徐々に進み、被災者たちは生活再建へ踏み出すが、いまなお仮設住宅で暮らす人々も多い。莫大(ばくだい)な予算を投じた集中復興期間はあと1年。被災地の今を見つめた。
「震災で色を失った故郷をタイルで彩りたい」
≪牡鹿郡女川町≫
宮城県女川町で「みなとまちセラミカ工房」の代表、阿部鳴美さん(54)はそう願う。工房で手掛けるのは、素焼きのタイルに絵柄や模様を描き上薬を盛り窯で焼く「スペインタイル」。鮮やかで色あせないのが特徴だ。
震災前、阿部さんは女川で陶芸サークルを主宰していたが、津波で全員が家を失い、1人は亡くなった。活動拠点の公民館、作品や道具なども流失。避難所と仮設住宅暮らしが半年ほど過ぎたとき、阿部さんは女川町復興連絡協議会のメンバーらと交流する中で、スペインタイルを知った。
震災から1年後の3月11日、視察したスペインで衝撃を受けた。タイルに囲まれた鮮やかな街。「これしかないと感じた」(阿部さん)。帰国後、町内の仮設商店街にスペインタイルの工房を開設、現在は女性8人で制作に励んでいる。
女川の身近なものを題材にしたタイルは、災害公営住宅や仮設商店に採用された。しかし、1辺7~20センチ四方の手作りタイルは月100枚が限界。今年度末で緊急雇用創出事業補助金も打ち切られるため、経営は苦しく工房は正念場を迎える。だが、阿部さんは「春に復旧する女川駅と周辺の町にもちりばめたい」と意欲を失うことはない。
≪「まちびらき」宣言へ準備着々≫
震災による大津波で827人の死者・行方不明者を出し、多くの家屋が損壊するなどして市街地がまるごと失われた宮城県女川町。21日、JR石巻線の全線開通と女川駅を中心とする町の復興を宣言する「まちびらき」が行われる。“生まれ変わる町”の準備が着々と進められていた。
震災後、既に約9メートルのかさ上げ工事を終えた新しい町の核となるのが女川駅舎だ。早くから被災地に入り、避難所を段ボールの筒で仕切りプライベートな空間を創出したり、住宅地が不足した女川で3階建ての仮設住宅を提案した建築家の坂茂(ばん・しげる)氏(57)が設計を担当。白い屋根は、港町で羽ばたくウミネコをイメージしたという。総工費は8億5000万円。
女川駅は震災前より約200メートル内陸に移設され、駅から女川湾までを貫く約400メートルのプロムナードとともに新しい町のシンボルとなる。今秋には、高台に復興住宅の建設が始まり、町が復興に向かって新たな歩みを始める。近いうちに人々の生活が戻ることが期待される。
駅舎の2階には、温泉施設「女川温泉ゆぽっぽ」を併設。こちらは「まちびらき」翌日の22日にオープンする。日本画家、千住博氏(57)と鉄道デザインで知られる水戸岡鋭治氏(67)をアートディレクターに迎え、浴室、脱衣所、待合室の3カ所の壁面には計6037枚のタイルを使った壁画が描かれる。待合室に描かれた「家族樹」は幅約10メートル、高さ2.7メートルの巨大タイルアートで1188枚のタイルを使用。樹木には女川町民らから公募した花のイラストがちりばめられる。
新生を余儀なくされた女川が復興する新しい姿が少しずつ見えてきた。(写真報道局 鈴木健児/SANKEI EXPRESS)