ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
エンタメ
ダンス音楽 メロディー復権 Tuxedo
更新
ディスコ/ファンク・ユニット、タキシード=2014年9月16日(提供写真) ダフト・パンク、ファレル・ウィリアムス、ブルーノ・マーズをフィーチャーしたマーク・ロンソン。ここ数年、1970年代後半から80年代初頭にかけてのファンクやディスコの影響を受けたサウンドが全米のヒットチャートを席巻している。そして、この流れに乗るかのように絶妙のタイミングでアルバムがリリースされたのがメイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンのユニット、Tuxedo(タキシード)だ。この作品は、R&Bやヒップホップのファンはもちろんのこと、ディスコ、ハウスといったクラブミュージックの愛好家からポップス、ロックなどのメジャーな音楽のリスナーまであらゆる対象を魅了する可能性を秘めている。
その理由は2人の音楽的背景に由来する。メンバーのメイヤー・ホーソーンはもともとヒップホップのDJであったが、ボーカリストとして「ストーンズ・スロウ」なるアンダーグラウンドなブラックミュージックをサポートすることで有名なインディペンデント・レーベルからデビュー。1960年代のサウンドをリメークしたモダンなR&Bの旗手として一躍脚光を浴びた。昨年はファレル・ウィリアムスをプロデューサーに迎えたアルバム『Where does this door go』でメジャーデビューも果たしている。
一方のジェイク・ワンは、スヌープ・ドッグ、50セントなどの大物アーティストのプロデュースを手掛け、グラミー賞にもノミネートされた経歴の持ち主。この2人が手を組み、親しみやすい旋律を引っ提げ、音楽トレンドのど真ん中に登場するのだから話題にならないわけがない。CDショップ店頭でのプッシュやラジオのパワープレーもあり、日本でのヒットも確実視されている。
ブラックミュージックを愛する2人がフォーカスした、往年の音楽ファンにも受け入れられる懐かしのファンク/ディスコ風の音楽性。そもそもこの手の音楽は、クラブDJによってダンスクラシックとして長年息長く評価されてきた。そして、ここ10年はよりリズムを重視した音色の加工や構成の変更で楽曲を再生するリエディットという手法の隆盛もあり、ブギーリバイバルと言った新たな呼称で急速に存在感を増していた(ブギーはディスコの別名でもある)。
もちろんTuxedoの楽曲にもドラムの音質や鍵盤の音色に現代性が取り入れられ、最新のボーカルトラックとして若い世代へのアプローチは可能だ。決して単なる懐古趣味にはなっていない。
しかし、彼らに限らず、こうしたノスタルジックな世界観が見直されるのは、聴き手を“あおる”だけの過剰なダンスミュージック、あるいは商業目的の軽薄なポップスへの反動なのではないかと筆者は推測する。これはメロディーの復権なのだ。
アルバムを通して貫かれる統一感とメイヤー・ホーソーンの爽やかにしてソウルフルな歌声が、その勢いをきっと加速するころだろう。『Tuxedo』は名盤の予感に満ちている。そして、まっとうな音楽ビジネスが健全であることをも証明しているのではないだろうか。(クリエイティブ・ディレクター/DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS)