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高浜原発の再稼働認めず 仮処分 福井地裁、新基準を否定

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高浜原発の再稼働認めず 仮処分 福井地裁、新基準を否定

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高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分決定を受け、垂れ幕を掲げ喜ぶ申し立て住民ら=2015年4月14日午後、福井県福井市・福井地裁前(共同)  2月に新規制基準に基づく安全審査に「合格」し、再稼働に向けた手続きが進んでいる関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)をめぐり、福井、大阪など4府県の住民9人が再稼働の差し止めを申し立てた仮処分で、福井地裁(樋口英明裁判長)は14日、「新規制基準は緩やかすぎ、基準に適合しても安全性が確保されているとはいえない」として、再稼働を認めない決定をした。原発運転禁止の仮処分は全国で初めて。

 決定はただちに法的効力が生じるため、今後の司法手続きで取り消されない限り2基は運転できない。関電は決定を不服として、異議と法的効力の停止を申し立てる方針だが、想定されていた11月の再稼働は極めて困難な情勢となった。

 樋口裁判長は決定理由で、2005年以降、4原発で基準地震動を超える揺れが5回あったことを重視し「基準地震動を超える地震が高浜原発に到来しないというのは楽観的見通しだ」と指摘。基準地震動を下回る地震でも、外部電源や主給水が断たれて冷却機能が確保できず、重大事故が生じる危険性があるとした。

 新規制基準についても「深刻な事故を引き起こす可能性が万が一にもないような厳格な内容を備えていない」と批判。基準に合理性はなく、適合しても安全性は確保されないとした。

 その上で、原発が再稼働した場合、250キロ圏内の住民には事故によって人格権が侵害される具体的な危険があると判断した。

 住民側は昨年12月、大飯原発3、4号機(福井県おおい町)を含む計4基について仮処分を申し立てた。大飯の2基についての審理は分離された。樋口裁判長は昨年5月にも大飯3、4号機の再稼働の差し止めを命じる判決を言い渡し、関電側が控訴している。

 ≪判断根拠は「人格権」 際立つ異質さ≫

 再稼働に向けた手続きが進められていた関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを言い渡した14日の福井地裁決定(樋口英明裁判長)は、専門的な知見に基づいて2基の安全性を認めた原子力規制委員会の行政判断を真っ向から否定した。樋口裁判長は昨年5月にも、大飯原発3、4号機の運転を差し止める判決を言い渡した。原発の運転差し止めを求める訴訟や仮処分申請は全国で相次いでおり、専門家からは科学的議論を無視する司法に批判の声が上がっている。

 昨年5月大飯でも

 「原発事故の危険性が万が一にもあれば差し止めが認められるのは当然だ」

 樋口裁判長は昨年5月の判決で、大飯3、4号機の再稼働を差し止めた理由をこう述べた。原発の安全性に関する判断には「必ずしも高度の専門的な知識を要するものではない」とも言及。生命や身体、名誉など個人が生活する上で保護されるべき権利を指す「人格権」を根拠に、原発のゼロリスクの証明を迫った。

 今回の仮処分決定も基本的な判断枠組みは同じだ。決定はさらに、新規制基準については「深刻な災害を起こす恐れが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えているべきだ」と指摘。「新規制基準は緩やかすぎ、適合しても安全性を確保したとはいえない」とまで踏み込んだ。人格権は憲法13条などが保障しているが、訴訟では主に、出版物の差し止めや近隣住民の騒音の差し止めをめぐって侵害の有無が争われてきた。それゆえ人格権を原発を動かさないための理由にする判決や決定の論理構成には、異質さが際立つ。

 最高裁判例踏襲せず

 従来、原発訴訟で有力な判例とされてきたのは、四国電力伊方(いかた)原発1号機の設置許可に先立つ安全審査の是非が問われた1992年の最高裁判決だ。

 判決は設置許可には「最新の科学的、専門技術的知識に基づく総合的な判断が必要だ」と判示。安全対策はあくまで専門知識のある行政の判断が尊重され、司法はその判断に不合理な点があるかどうかを審査するとした。

 このため、原発訴訟では安全性の判断にまで踏み込む判決は少数だった。これまでに運転差し止め訴訟で住民側が勝訴した例は、2006年に北陸電力志賀原発2号機の運転停止を命じた金沢地裁判決と福井地裁判決の2件しかなく、金沢地裁判決は上級審で結論が覆った。

 「司法の暴走」

 「福島第1原発事故の教訓をもとに行政庁と電力会社が積み上げてきた科学的議論を、先入観をもとにした無見識な判断で全て否定した。司法の暴走としか言いようがない」

 大阪大の宮崎慶次名誉教授(原子力工学)は福井地裁決定を痛烈に批判した。

 樋口裁判長は大飯3、4号機の訴訟と今回の仮処分で、いずれも原子力専門家の証人尋問を回避。関電側が慎重な議論を求めたにもかかわらず、通常5年以上はかかるとされる訴訟の判決を約1年3カ月で言い渡し、仮処分についても約4カ月で決定を出した。

 脱原発弁護団全国連絡会(東京)によると、運転差し止めなどを求めた訴訟や仮処分申請は現在、全国で20件以上ある。ただちに効力が生じる仮処分で運転を認めない決定が続けば、司法が再稼働を阻む新たな「壁」になりかねない。

 宮崎名誉教授は「司法が三権の一つとして自ら判断を下すのであれば、裁判官は専門家の意見にも耳を傾けるべきだ。机上の裁きを続ければ、司法の権威を損なうことになりかねない」と訴えている。(SANKEI EXPRESS

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