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韓国旅客船沈没1年 「娘はまだ海底…」 政府との溝なお深く 「幕引き」に遺族反発
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旅客船「セウォル号」沈没事故から1年を前に、献花のため現場海域を訪れた遺族ら=2015年4月15日、韓国南西部の珍島沖(共同) 韓国南西部、珍島沖で修学旅行中の高校生ら304人が死亡・行方不明となった旅客船「セウォル号」の沈没事故から16日で1年を迎える。犠牲者遺族ら約200人は15日、現場海域を船で訪れて献花し珍島では慰霊祭が開かれた。韓国政府は犠牲者への賠償基準を決めるなど区切りをつけようとするが、遺族らは“幕引き”の動きに強く反発。双方の間に横たわる溝はなお深い。
ソウル市中心部の光化門交差点の広場は、いまも事故犠牲者の追悼場となっている。追悼のトレードマークである黄色いリボンが無数に飾られ、遺族や支援者が事故の真相究明に向け署名活動を続けている。
修学旅行中に惨事に遭った檀園(タンウォン)高校(京畿道安山市)では、2年生の生徒や引率教師ら261人が死亡、行方不明となった。
生徒の趙恩和(チョ・ウナ)さん(事故当時16)の母、李金姫(イ・グミ)さんは「沈没から1カ月でほとんどの犠牲者が引き揚げられた。でも私の娘は今も50メートル下の海底にいます。娘の友人(生存者)に会うのもつらく、避けています」と言う。「娘が『捜して』と叫んでいるのに、私は遺族にさえなれない」と心境を語った。
朴槿恵(パク・クネ)大統領は今月6日、行方不明者の捜索や原因究明のためのセウォル号の引き揚げについて、「技術的に可能との結論が出れば、積極的に検討する」との考えを表明。韓国海洋水産省傘下の官民合同検討班は10日、「引き揚げは可能」との結論を出した。
約6800トンの船は切断せず、原形のまま引き揚げる方向で、作業には1~1年半ほどの期間と900億(約99億)~2020億ウォン(約222億円)の費用がかかる見込み。
これに先立ち、犠牲者への賠償・補償の基準が発表された。船会社に代わり韓国政府が支給する賠償金や募金による慰労金などは、高校生の犠牲者の場合、1人当たり計8億ウォン(約8800万円)以上になる。
しかし、遺族側は「金の問題ではない」と訴え、政府の対応に反発している。11日には遺族や支援者数千人が、ソウル中心部で事故の真相究明と船体引き揚げを政府に求める集会を開いた。大統領府に向かいデモ行進を始めた人々と警察が激しくもみ合い、一部の参加者は連行された。
事故から1年の16日は、檀園高校がある安山市など126カ所で追悼式典が行われる。朴大統領から何らかのメッセージが出される見通しだが、大統領は関連行事を済ませて、その日のうちに南米4カ国歴訪に出発する。
歴訪日程が発表された10日、「惨事から1年の日に出国するなんて、冷た過ぎないか」(遺族)、「事故原因究明の意思があるのか、事故当日を覚えているのか」(野党・新政治民主連合)との批判が起きた。
生徒を引率中に事故に遭った檀園高校の教員、梁承珍(ヤン・スンジン)さん(当時57)は今も行方不明。妻の柳百馨(ユ・ペギョン)さんは「夫は子供たちだけのために、32年間、教員として生きてきました。ただ、恋しく、寂しいだけです」とポツリと語った。(ソウル 名村隆寛/SANKEI EXPRESS)