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東日本大震災1500日 亡き弟へ届け こいのぼり空高く

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東日本大震災1500日 亡き弟へ届け こいのぼり空高く

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大曲浜新橋に並んでなびくこいのぼり=2015年4月17日、宮城県東松島市大曲(岡田美月撮影)  東日本大震災の発生から18日で1500日となる。鉄道や道路など公共インフラは着々と復旧が進む一方、いまだ避難生活を余儀なくされている人は約22万5000人にも上る。復興のスピードは信じがたいほどに遅いが、被災者たちは「今」を必死に生き、決して希望を失うまいと歩み続けている。

 全国から700匹

 「今年もたくさんのこいのぼりを揚げるよ」-。

 東日本大震災で犠牲となった子供たちが天国で寂しくないようにと、東北福祉大4年の伊藤健人さん(21)=宮城県多賀城市、写真=は毎年、5月5日のこどもの日に合わせ、宮城県東松島市沿岸にある大曲浜地区の空に、青いこいのぼりを揚げている。

 震災があった2011年の5月から、県内の企業の協力などを得て始めた「青い鯉のぼりプロジェクト」。全国からこれまでに約700匹のこいのぼりが寄せられた。仲間や支援者も増え、東松島の復興のシンボルとなっている。

 「これは、ぼくのこいのぼりだね」

 そう言って、東松島市大曲の自宅で揚がった青いこいのぼりを指さして大喜びしていた末弟、律君=当時(5)=の声や姿を今も鮮明に思い出す。

 両親と弟2人、祖父母の7人で暮らしていた。だが、4年前の3月11日、自宅から車で避難する途中、祖父の盛雄さん=当時(75)▽祖母のキセさん=当時(75)▽母の智香さん=当時(45)▽三男の律君-を大津波が襲った。

 体調を崩して入院していた父の伸也さん(49)は、津波から逃げる智香さんと直前まで電話で話をしていたが、「後ろから津波が来た」という言葉を最後に通話は切れた。それが母の最期の言葉だった。大津波は家族4人の命を奪い、思い出の詰まった家をも破壊していった。

 「何かしなければ、変になりそうだった」。津波にさらわれた4人を捜し続けた。律君は震災から数日後に見つかる。さらに、母と祖父母を捜していたとき、全壊した自宅跡の近くの木に絡まっていた青いこいのぼりを見つけた。「律のこいのぼりだ」。泥だらけのこいのぼりを洗い、律君に見えるように空高く揚げた。母は震災から1カ月後の4月11日、祖父母もその数日後に見つかった。

 伊藤家のアイドルだった律君は、やんちゃで母から一時も離れない甘えん坊だった。家族旅行で福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」を訪れて以来、フラダンスにはまり、踊りながら、よくおどけていた。母方の祖父から習っていた和太鼓をたたくと、律君も見よう見まねでたたいた。「また一緒に太鼓をたたきたい」。かなわない思いが寂寥感となって募っていく。

 アパートで父の伸也さんと弟で次男の広夢さん(18)との3人だけの男所帯。伸也さんは酒を飲みに出かける回数が増え、そして酔いつぶれる。「おっかあは、まだ帰ってこないのか」。そう言って妻の帰りを待つ父の背中に「亡くなったよ」とは言えなかった。

 松島の歴史に

 環境を変えよう-。

 2013年夏、健人さんは父の伸也さん、弟の広夢さんと3人で、東松島市から多賀城市に引っ越した。伸也さんが震災後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されたからだ。

 汗びっしょりになりながらの引っ越しは、家族3人の新しい思い出だ。時の流れでしか癒やせないものもある。今は、伸也さんも落ち着きを取り戻し、広夢さんは社会人となった。

 「何もかも流されてしまったが、青いこいのぼりは戻ってきてくれた。今やれることをやろう」(伊藤さん)との思いで、震災の年から始めた「青い鯉のぼりプロジェクト」。

 全国の家庭などから集まり、11年5月に空に揚げたこいのぼりは204匹だったが、その後も年々増え続け、今では700匹ほどにまで達した。こいのぼりの一部は現在、東松島市の大曲浜地区にある大曲浜新橋で揚がる。26日からこどもの日までは、この橋の周辺にある更地でも、こいのぼりを揚げる。

 「絆とかつながりとか、震災前は正直、よく分からなかった。支えてもらう立場になって、その存在に気づくことができた」

 悲しみも優しさもたくさん感じてきた4年間だったからこそ、人の気持ちが考えられるようになった。震災は自分を強くしたとも思う。来春は社会人となる。「建物だけが再建される空っぽの復興にしては駄目だ」。いろいろ悩んだ末、やっぱり東松島の役に立ちたいと市職員を目指すことを決めた。

 社会人になってもプロジェクトは続けていく。子供の代までずっと。そしていつか、東松島の歴史に刻みたい。「みんなから忘れ去られないように。犠牲になった子供たちが寂しくないように」(稲場咲姫/SANKEI EXPRESS

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