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【東日本大震災4年】若い世代流出 「本当は残りたい」

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【東日本大震災4年】若い世代流出 「本当は残りたい」

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東日本大震災から4年を迎えた宮城県石巻市内はうっすらと雪が積もった。復興工事が進む一方で、人口減少が続いている=2015年3月11日(尾崎修二撮影)  東日本大震災の被災地、宮城県東松島市の仮設住宅の一室で、飯川賢太さん(33)は引っ越しに向けて準備を進めていた。仮設住宅は二間と台所しかない広さなのに、家族3人で用意した段ボール箱は20箱に上った。

 荷分け作業のさなか、長男の救人(きゅうと)君(2)が、被災者からもらったおもちゃが出てきた。「これは捨てられないな」。そう言って脇の段ボール箱に詰め込んだ。

 勤めていた農業生産法人を2月末に退職した。転居先は妻の彩(あや)さん(33)の実家がある埼玉県深谷市の借家だ。彩さんも福祉施設を辞めた。「被災地で生活すると心に決めたのに…」。この2年余りのことが頭に浮かんだ。

 夫婦は被災者ではなく、ボランティアだった。仮設住宅の空き部屋を、ボランティアなどを対象に貸し出す制度を利用して暮らしていた。賢太さんは仙台市太白区で、彩さんは深谷市の実家で震災を経験したが、大きな被害はなかった。

 2人は震災後のボランティア活動を通じて出会い、2012年3月に入籍した。「被災地が被災地でなくなるまで、地域に貢献したい」。そんな思いから本腰を入れて取り組むため、夫婦そろって転職し、10月から東松島市内に移住。11月には救人君も生まれた。

 宮城・東松島 厳しい現実

 家庭を持つと、見えないものが見えてきた。共働きでは子供が体調を崩したら、どちらかが仕事を休まなくてはいけない。病児保育を行う施設は東松島市にはない。同僚は急な申し出でも快く受けてくれたが、後ろめたさを感じた。仮設住宅も退去期限があり、市内で住居を探してみたものの、被災者を差し置いて探すことは気が引けた。

 将来もう一人子供を授かるかもしれない。自分たちが苦労するのはいい。子供には、不自由な思いをさせたくない。不安は払拭できず、何かあれば彩さんの母親が面倒を見てくれることから転居を決めた。仕事はこれから探すという。

 東松島市に来たとき、「一緒に頑張ろう」と被災者と言葉を交わした。裏切ることになったことをわびるため、知人ら約30人に挨拶に回った。返ってきたのは厳しい言葉ではなく、逆に「それがいい」と背中を押された。それも気が重かった。なんと声をかけてもらいたかったのだろう。いまだに分からない。

 「本当は東松島に残りたい」と話す彩さんだが、被災地で子供を産み、育て、復興に携わる日々は、現実には厳しかった。

 出生総数も減少

 10年の岩手、宮城、福島の3県の出生総数は4万5002人。13年は約2300人減の4万2726人となった。

 死者・行方不明者3972人(2月末現在)と、被災自治体で最大の人的被害を受けた宮城県石巻市。10年に1104人だった出生数は、震災の起きた11年に986人と激減した。12、13両年は1000人をわずかに超えた。10年9月には16万3216人だった人口も、今年1月末は14万9687人に。特に11年の転出者数は9014人で、12、13両年も5000人弱が転出。転入などを差し引いても、年間1000人近く人口が減っていることになる。

 ただ、希望の光も、少しずつ見えてきている。市内で「あべクリニック産科婦人科」を開院する阿部洋一院長(67)は「震災前に比べて取り上げる赤ちゃんは1カ月当たり10人近く増えている」と話す。

 5カ所あった分娩(ぶんべん)施設が震災後には3カ所に減少し、妊婦が集まってきたことが理由の一つだが、新しい命は確実に被災地で生まれている。

 過疎化を先取り

 出生率を上げるために、産みやすい環境を整えることが必要となる。県が把握している産婦人科医は13年4月の時点で166人。人口比で見ると少なくはないものの、分娩施設の県内47カ所のうち30カ所が仙台市か近郊で、都市部と地方の格差が目立つ。

 東北大大学院の吉田浩教授(加齢経済学)によると、人口減少は都市部と地方では構造が異なるという。都市部では「非婚化」「晩婚化」、子供を産まない「少産化」が主流となっている。地方では出生しても定着せず、人口流出が続く状態だ。特に被災地では震災後に若い世代が転出した。「震災が過疎化を何年も先取りした」という。

 吉田教授は「若い時期に子育てに専念する時間を確保してあげることが大切だ。政府にお金はないが、時間は与えられる。アベノミクスに“第4の矢”があるなら、子育て時間を与えるべきだ」と指摘した。(SANKEI EXPRESS

 ■被災地の人口減少 2010年の国勢調査の時点で、被災3県の人口は福島県が202万9064人、宮城県234万8165人、岩手県133万147人だった。今年1月1日現在の推計人口によると、福島県は9万3922人、宮城県2万440人、岩手県4万7617人減少しており、福島からの流出が目立つ。

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