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【取材最前線】超異例の代表選考公開
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柔道の全日本選抜体重別選手権の初日の4月4日は慌ただしい一日となった。朝の試合開始前、全日本柔道連盟(全柔連)の広報担当者から「山下さんが(東京運動記者クラブの柔道分科会の)幹事と話したいことがあるそうです」と連絡が入った。山下さんとはロサンゼルス五輪金メダリストの山下泰裕(やすひろ)氏。現在は全柔連の副会長で、今春から強化委員長を兼務する。今年度の幹事を務める記者がプレスルームで待っていると、訪れた山下氏が「あす(4月5日)の強化委員会を報道陣に公開したい」と切り出した。
強化委員会のテーマは8月の世界選手権の代表選考。つまり、オープンな場で代表選考を行うということだ。他競技を含め、強化委員会の公開は極めて異例。一瞬、耳を疑った。一方で、直前に女子マラソンや卓球の世界選手権代表選考をめぐり、不満の声も出ていた。山下氏は言った。「委員の中にも公開に慎重な意見がある。だけど、選考に透明性を持たせたい」。柔道界として、大きな一歩を踏み出そうという強い意思を感じた。
問題は、出された大きく分けて3つの条件だった。(1)取材は主に加盟各社のみ(2)発言者を特定した記事を認めない(3)今後の公開は未定-。最も引っかかったのは、取材活動が制限される(2)だった。
加盟各社との協議でも「制限は受け入れるべきでない」と反対の声が上がり、最終的には「今回は試験的に」ということで落ち着いた。いざ、公開された強化委員会の場は白熱していた。男女とも、コーチ会議で決まった原案に対して客観的なデータを示して別の選手を推す委員もいた。
14日に山下氏と加盟社の記者が集まり、意見交換を行った。記者側は取材への制限に対する懸念を改めて伝えたのに対し、山下氏も「公開したことでデータに基づく説明がこれまでより丁寧になった。実は、本音の議論ができなくなってしまったら、どうしようと心配していた」と胸の内を明かした。
山下氏は今後も公開するのか腹を決めかねていた。来年は、夏のリオデジャネイロ五輪の代表が選考される。それゆえに、強化委員からは今年以上に反対の声も予想される。度重なる不祥事から改革を進める柔道界。その決断にスポーツ界の注目が少なからず集まっている。(田中充/SANKEI EXPRESS)