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【「水球女子」中野由美のリオに向かって】「ポイントゲッター」としての自負
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得点に人一倍強くこだわって練習を続けているという中野由美さん(右)=2015年4月4日、東京都内(本人提供) 水球は1チーム7人でプレーします。そのうち、ゴールキーパー(GK)が1人。あとの6人が「フィールダー」と呼ばれ、プールに設けられたコートの中を攻守に泳ぎ回ります。
選手のポジションは1~6までの番号で呼びます。サッカーのようにFWやMFといった明確な区別はありませんが、私は「2番」が日本代表でのポジションです。代表では大学3年から不動のポジションで、敵陣でGKに対して右45度から攻撃に参加するのが役割です。
昨年9月のアジア大会(韓国・仁川)では大会得点王になることができました。こう言ってはなんですが、「日本代表のポイントゲッター」を自負しています。
プレー中の選手同士の当たりは女子でも例外なく激しく、シュートを打とうとしようものならすぐさま体ごと乗っかってこられ、つぶされそうになります。
私の身長は160センチ。体格に恵まれた海外勢と比べるもなく、日本代表の中でも小柄な部類に入ります。肩も弱く、豪快なシュートが打てるわけでもありません。
そんな小柄な選手が体格もパワーも優る外国人選手の守備に対し、「同じ土俵」で対抗しても勝てるわけがありません。磨いてきたのは、テクニックです。
シュートのときに最も意識するのは、GKのポジショニングです。水面に浮くゴールの大きさは幅3メートル、高さ90センチ。ボールを手から離すギリギリの瞬間まで、立ちはだかるGKと駆け引きを続けます。
右か左か、上か水面に近い下か-。ゴールへ向ける視線と体の向きでGKを揺さぶります。例えば、左へ意識を寄せて、手首を返して右へのシュートを打ったり、球持ちをできるだけ長くしてGKが我慢できずに動いた方向とは反対に山なりのループシュートを放ったり…。実際の時間では一瞬のことですが、その攻防を制さないことには得点はできないのです。幸いにして、肩の関節が柔らかく、可動域が広いのことが、多様なシュートが打てる強みへとつながっています。
ポジショニングでも“フェイント”は可能です。ゴールから7メートル。普通は5メートル付近から打つのですが、GKが油断している場所からミドルシュートを打ちます。これは、自分でも得意なシュートです。
サッカーの日本代表戦をテレビなどで観戦していると、読者の皆さんも「決定力不足」という言葉をよく耳にすることがありますよね。実は、水球の日本女子の欠点とも共通しています。日本人の弱点なのかもしれませんが、ここを変えていかないと、世界では勝てません。当然、五輪の出場切符を得ることもできないのです。一瞬のチャンスをどう生かすか。ポイントゲッターである私にとっても、大きな課題なのです。
普段の練習からも、重点を置くのはGKとの駆け引き、そしてシュートコースにできるだけ正確にボールを打つことです。練習を重ねれば、GKを見たら、「あそこが空いている」とシュートコースが見えるようになってきます。練習や国内の試合で得点になっても、コースを狙えていなければ納得してはいけません。「公式戦なら、外国人相手なら…」。ハードルを高く設定して練習から意識を高く持たなければなりません。後輩たちにも、つい厳しくなってしまいますが、それも五輪という夢をみんなでつかみ取るためだと言い聞かせています。
実戦になれば、私自身も1試合の中で、シュートは多く打てても15本です。この中で、4、5点取れれば及第点です。成功率3割。水面下で相手選手から体を蹴られ、水着が破れるくらいに引っ張られる状況の中での話です。体をつかまれたら、それこそ水中へと引き込まれます。アジアでは、私へのマークも厳しく、2人がかりでこられることもあります。
しかし、自分が得点を取らないと勝てないという思いは強いです。実際、自分が得点を取れていない試合は勝てていません。どんな場面でも決めないと勝てません。
4月下旬からニュージーランドで国際大会が始まります。実は2月の強化合宿で腰のヘルニアを発症してしまい、現在は治療とリハビリの日々です。何とか大会に間に合わせて、代表最年長の意地を見せたいです。積み重ねる1点、1点がリオへの歩みだと信じて。(水球女子日本代表、東京都立桜町高教員 中野由美/SANKEI EXPRESS)