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「西側との妥協なし」 中国、言論統制を強化
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中国の裁判所が先月、改革派女性ジャーナリスト、高瑜(こう・ゆ)氏(71)に懲役刑を言い渡したことに対し、欧米各国から批判が相次いだ。中国では3月、セクハラ防止を訴える活動を計画した女性活動家5人が当局に拘束される(その後釈放)事件があったばかりだが、高氏に対する厳しい判決も、中国指導部の言論統制の厳しさを示している。
華僑向けの通信社、中国新聞社の記者出身の高氏は、1989年の天安門事件の際、「混乱と反乱」の青写真となる文章を香港の月刊誌に書いたとして逮捕され、約1年2カ月拘束されたが、その後も、中国共産党の一党独裁体制を批判。93年には「国家機密漏洩(ろうえい)罪」で逮捕され、懲役6年の判決を受けた。97年には長年、報道の自由を求めて戦ったとして国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界報道自由賞を受賞している。
その高氏に対し、北京市第3中級人民法院(地裁)は4月17日、国家機密を国外に漏らした罪で、懲役7年の実刑判決を下した。罪状は、習近平国家主席(61)を中心とする中国指導部の思想統制に関する「機密文書」を米国メディアに流したというものだ。
この文書は、西側の立憲民主制や民主主義、自由、平等、法の支配といった価値観、経済の「新自由主義」、西側のジャーナリズムなどを誤った思想だとして普及を禁じる内容で、「9号文件」と呼ばれている。
だが、高氏は情報漏洩を否認している上、9号文件の内容を最初に報じたとされる米国の中国語サイト「明鏡新聞網」側も高氏による情報提供はなかったとしている。
「明鏡」の創設者は、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版、4月28日)への寄稿で、9号文件は中国共産党中央宣伝部のある人物によるリークだったことを明かし、「高氏の本当の罪は9号文件のリークとは関係ない。彼女の政権批判が、権力側を怒らせたのだ」と指摘。その上で「習近平氏は最近、司法の透明性を高める計画を発表したが、高氏への有罪判決は、反対意見を受け入れることができない独裁者の下、状況は何も変わっていないことを示した」と主張した。
米紙ワシントン・ポストも社説(電子版、4月22日)で、かつて高氏が習氏について、「真の改革者ではなく、共産党による統治の初期に、毛沢東が掌握していたような権力や正統性を取り戻すのに躍起だ」と評したことを紹介し、「彼女は正しかった。それはまさに習氏がしてきたことだ」と指摘した。
そして高氏と獄中にいるノーベル平和賞受賞者、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏(59)ら「政治犯」の釈放を求めつつ、「中国の統治者たちは、自らが切望する強い国は国民を恐怖ですくませるような社会ではなく、健全でオープンな社会に基づいて築かれなければならないと認識すべきである」と訴えた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版、4月23日)も社説を掲載。「習氏はどうも、報道の自由や司法の独立がない一党独裁国家から腐敗を根絶できると信じているようだ。そして、『地域化』の名の下に海外の技術を追放し、大学から『西側の価値を奨励する』教科書を排除しながら、ワールドクラスの経済をつくることができるとも信じているらしい」と皮肉った。
こうした西側の声に反発する中国メディアの論調を見る限り、中国社会の先行きは明るくなさそうだ。
高氏に判決が出る直前から欧米で起きていた中国批判に対し、中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(電子版)は4月18日に社説を掲載。「罪を犯した者であっても、西側世論に気に入られれば、『人権闘士』や『言論の自由の闘士』になるのだ」とした上で、「西側の一部勢力は『人権』と『言論の自由』で中国を包囲攻撃するが、これはこの問題をめぐって、中国と西側が妥協できないことを証明している。予見しうる未来に、中国と西側のこの種の対立はやむことがないだろう」と論じた。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)