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国際
イラン核合意 ざわめく原油市場
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首都テヘラン南郊にある半ば休眠状態の製油所。経済制裁が解除されても、イランでは多くの石油施設の保守管理が滞っているため、すぐに生産力を回復させるのは難しいとの見方もある=2014年12月22日(AP)
イランが核問題をめぐって米国など6カ国と枠組み合意に達し、原油市場でイラン産原油の供給が増えるとの思惑が強まっている。経済制裁の解除後にイラン産の輸出が増え、原油価格は下がるとの見方が大勢だ。ただ、原油市場はすでに供給過剰で、油価は低迷が続いている。エネルギー情勢は物価や貿易収支を通じて各国の経済政策にも影響するだけに、イランの原油輸出がどの時期に、どの程度まで回復するのか、専門家や投資家が分析を深めている。
イランと6カ国がスイス西部ローザンヌで合意した2日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は「経済制裁が解除されれば、イランは翌年までに1日当たり100万~120万バレルの生産増が可能になるだろう」との見方を示し、その結果、「世界的な供給過剰を強めるとともに、原油価格の(下押し)圧力になる」とした。実際に2日の合意後は、指標となる北海ブレント原油先物が一時1バレル=54ドル台と前日比約5%下落した。原油市場で投資家が、世界7位の産出量を持つイランの供給増を想定していることをうかがわせた。
ただ、イランと6カ国との協議は今後、詳細を詰める最終合意に向けて6月末まで続けられる。経済制裁の解除の方法をめぐり、米国が「段階的な解除」(ジョン・ケリー国務長官)を主張する一方、早期の全面解除を求めるイランとの間で火種が残っており、曲折も予想される。そのためWSJは「イランの原油市場への影響がどうなるかは最終合意次第だ」と指摘する。
ローザンヌの合意直後には、制裁が解除されれば、イランは数カ月内に一定の輸出量を回復できるとの見解もあった。4月6日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版)は、イランが持つ原油在庫が3000万バレルにのぼる点に触れたうえで、「制裁解除から3~6カ月あれば日産50万バレルを増加できる」との調査機関の見解を紹介した。
ただ、イラン国内の石油産業の現状などの分析が進むにつれて慎重な見方も増えてきた。
ロイター通信は12日、「イランの供給量が目立って増えてくるのには3~5年はかかるだろう」とする国際エネルギー機関(IEA)のチーフ・エコノミスト、ファティ・ビロル氏(57)のインタビュー記事を配信した。ビロル氏は「経済制裁で原油輸出量が半減していた間に、イラン国内の生産設備の保守管理が滞った」と指摘。生産回復までに設備の更新投資が必要となるものの、外国から投資を呼び寄せるのは簡単ではないとの認識を示した。
ビロル氏によると、低迷する原油価格のあおりで、世界の石油関連企業の投資は2014年から15年にかけて約2割も落ち込んでいる。イランの生産能力は対内直接投資の回復の度合いに左右される側面もあるという。
もっとも、イランの「原油市場への回帰」(ロイター通信)を見込んだ動きは、すでに始まっている。
4月6日付のFT(電子版)は、「テヘランは、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどが10年に撤退して以降、外資の投資を熱望している」とし、イランが外資との新たな契約締結に向け動き出そうとしており、「その第一陣は仏トタルと伊エニになる」と具体名を挙げて伝えた。
かつてのイラン原油の“得意先”は、インド、韓国、日本、トルコ、そして中国だった。その中国には、イランのビージャン・ザンギャネ石油相(62)が8日、さっそく産業界関係者を引き連れて訪問。中国の大手資本に対し、制裁解除後のイランへの投資を求めた。
ザンギャネ氏は訪中の際、「石油輸出国機構(OPEC)は、価格破壊を起こすことなくイランの原油市場への回帰を受け入れる『自己調節』ができるだろう」(9日、ロイター通信)とコメントした。
原油価格は1年で半分の価格に下落した。OPECの盟主であるサウジアラビアが減産を受け入れず、需給が緩んでいるのも一因だ。サウジとイランは、混乱が広がるイエメンで、対立する勢力をそれぞれ支援している。イランのメディアが「サウジ産原油のボイコットを呼びかけた」(8日、UPI通信)と報道されており、制裁解除後を見すえたさや当てが早くも始まっている。(国際アナリスト EX/SANKEI E XPRESS)