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【安倍政権考】雲行き怪しい、参院選挙制度改革

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【安倍政権考】雲行き怪しい、参院選挙制度改革

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参院選挙制度改革で難しい舵取りを迫られている自民党の溝手顕正(みぞて・けんせい)参院会長=2015年5月16日午後、国会内(酒巻俊介撮影)  参院の「一票の格差」是正に向けた選挙制度改革の雲行きが怪しくなってきた。正副参院議長と与野党代表者による選挙制度検討会は改革に対する各党の考えに開きがありすぎるとして取りまとめを断念したが、来夏の参院選で導入するには公職選挙法の改正が必要になるため、周知期間なども考慮すれば今国会がリミットだ。今後は各党間の協議に委ねられるが、与党内でさえ開きが大きく、取りまとめは難航しそうだ。

 最高裁判決受け公明も反発

 「検討会に区切りをつけ、各党間で民主的手続きにのっとって法案化してほしい」。29日の検討会で、山崎正昭参院議長は協議の打ち切りを告げ、今後は改革案の検討を各党協議に委ねる考えを示した。

 前回21日の検討会で自民党の溝手顕正(みぞて・けんせい)参院議員会長は「都道府県単位の選挙制度を極力維持し、可能な限り憲法の趣旨にのっとった成案を目指す」と表明。定数の「6増6減」を改革案の柱とする考えを示した。

 これに対し、野党側は6増6減案では格差は最大4.31倍(自民党試算)となり、抜本的改革には当たらないと反発。公明党は主張していた全国11ブロックの大選挙区制を撤回し、合区を容認して格差を2倍以内とする案を提示した。

 定数の是正だけで事を済ませようとする自民党に対し、民主党など野党だけでなく、同じ与党の公明党でさえ反発する背景には昨年11月の2013年参院選の一票の格差をめぐる訴訟の最高裁判決がある。格差が5.00倍だった10年の参院選に続き、4.77倍だった13年の選挙でも最高裁が「違憲」や「無効」ではなく、“違憲状態”にとどめたのは、「選挙制度の抜本的見直しを16年選挙までに実施する」と規定した改正公職選挙法の付則を重視したためだ。次回参院選で合区のような抜本的な改革が行われなければ、今度こそ「違憲」「無効」の判断をする可能性を示唆したといえる。

 参院自民党は昨年11月の与野党選挙制度協議会で、(1)6増6減(2)鳥取と島根の合区(3)6増6減と合区を両方実施-の3案を提示した。が、3案でも最大格差は3.23~4.31倍にしか抑えられず、野党側から再検討を迫られた。

 合区批判警戒して揺り戻し

 今年に入り参院自民党は衆院でも適用される格差「3倍以内」を目指し、「鳥取と島根」に加え「徳島と高知」を合区して改選数1の選挙区とし、長野など改選数2以上の「複数区」の定数の増減を組み合わせる案を検討。しかし、21日の検討会で6増6減案に揺り戻したのは、「合区で割を食うのは自民党だけ。一度合区すれば、『蟻の一穴』で次々と合区される」(参院若手議員)との党内の反発を警戒したためだろう。

 ただ、21日の検討会後、溝手氏は公明党が容認した合区案について「あり得る」と含みを残した。今後の与党協議をまとめるためには、合区を主張する公明党に歩み寄る必要があるからだ。溝手氏は合区に慎重な若手議員らを国会内の参院議員会長室に呼び、「説得工作」も始めた。

 しかし、公明党はさらに格差2倍以内という高いハードルも突きつけている。6増6減に加え、自民党が検討してきた2合区を加えた案でも2倍以内には及ばない。自民党の伊達忠一参院幹事長は26日の記者会見で「2倍以内は困難」との認識を示しながらも、「(公明党とは)与党案をまとめることで合意している」と自身を見せた。が、党内の慎重派を抑え、公明党から譲歩を引き出せるかはわからない。

 自民党が責任与党として改革案を取りまとめられず、現行制度のまま来夏の参院選に突入すれば、無責任のそしりは免れないだろう。野党が最高裁判決を無視した与党の横暴などと批判して、参院選の争点となれば大きな逆風となりかねない。

 その後の一票の格差訴訟で、最高裁が「違憲」あるいは「無効」と判断すれば、国会審議にも大きな影響を与えるのは必至だ。悲願の憲法改正に向け、参院でも与党で3分の2を確保したい安倍晋三首相だが、足下をすくわれかねない。(小島優/SANKEI EXPRESS

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