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【安倍政権考】消費税10%超増税めぐり早くも駆け引き

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【安倍政権考】消費税10%超増税めぐり早くも駆け引き

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経済財政諮問会議で、あいさつする安倍晋三(しんぞう)首相。右は菅義偉(すが・よしひで)官房長官=2015年5月12日午後、首相官邸(共同)  「財務省が持ってくる文書には、消費税を10%より上げようとする狙いが見え見えなんだよ」

 安倍晋三首相(60)は今春、周辺にこう述べ、財政健全化を名目に消費税率を10%よりもさらに引き上げようと画策する財務省に不快感を示した。財務省がさまざまな政府文書に消費税率10%超の可能性を生じさせる文言を盛り込ませようとしていることに、首相は神経をとがらせている。

 財務省にくぎ

 政府は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2020年度に黒字化する目標を掲げている。今年2月発表の内閣府の試算によると、アベノミクスによる景気回復や消費税率の8%への引き上げで、15年度にPB赤字の対国内総生産(GDP)比率を10年度から半減させる目標は達成できる見通しが立った。だが、20年度のPB黒字化に向けては、17年4月の消費税率10%引き上げを前提に、成長率を名目3%以上の高めに設定しても、9.4兆円の赤字が残るとの結果が出た。

 9.4兆円の赤字を埋めるには、経済成長による税収増、社会保障費などの歳出削減、増税による歳入増の3つが考えられる。「9.4兆円」の試算はすでに高成長を見込んでいることもあり、財務省がもくろむのが、消費税率を10%よりもさらに引き上げる案だ。

 消費税は税率を1%上げると約2.7兆円の税収を確保できるとされる。例えば、消費税率を10%からさらに3%上げ、1.5兆円程度の歳出カットを行えば、「9.4兆円」の帳尻が合う。

 ただ、こうした机上の計算には、消費税率の引き上げを実行する政治的な困難さは含まれていない。民主党政権はマニフェスト(政権公約)に約束していなかった消費税率の引き上げを決めたことで「ウソつき」の烙印(らくいん)を押され、政権の座を失う大きな要因となった。

 民主党政権を倒した安倍政権も、昨年4月の消費税率の8%への引き上げによる景気減速に悩まされた。景気動向は政権の支持率に直結するため、首相としても敏感にならざるを得ない。いくら財政健全化に有効だからといって、消費税率を10%超にする“増税”を軽々に認めるわけにはいかないのだ。

 首相は、今月12日の経済財政諮問会議で「経済再生なくして財政健全化はない。これが安倍内閣の経済財政運営の基本哲学だ」と述べ、財政健全化ありきの議論にくぎを刺した。あくまでも高い経済成長を目指して構造改革を断行し、その結果として税収増を狙うという基本姿勢を貫く考えを強調した。

 一方、もう一つの財政健全化策である歳出カットの議論は行方が見通せない。財務省の財政制度等審議会や自民党の財政再建に関する特命委員会は、社会保障費の抑制や地方予算の削減などを打ち出しているが、自民党内からは「来年参院選を控えているのに、社会保障費などの大幅カットは、どだい無理な話」(中堅)と、占拠への悪影響を懸念する声が相次いでいる。

 狙いは「中間目標」

 政府は、6月に取りまとめられる経済財政運営の指針「骨太方針」に、32年度のPB黒字化に向けた財政健全化計画を盛り込む。消費税10%超への増税は封印されている上、歳出カットも具体的に打ち出せないとなると、高成長による税収増に大きく期待する内容となりそうだ。

 財務省の次の狙いは、18年度に財政健全化の中間目標を設定し、達成できない場合の消費税10%超への増税の可能性を残すことだ。政府筋は「今秋の自民党総裁選で首相が再選されれば任期は18年の秋まで。それからだったら10%超の議論はできるはずだ」と語る。

 消費税率引き上げ論議による政局を嫌う首相が、中間目標未達による消費税10%超への増税の可能性は容認するのか、財政健全化計画の注目点となりそうだ。(桑原雄尚/SANKEI EXPRESS

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