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「サービス悪化…今のままでいい」 大阪都構想否決 市民の決断

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「サービス悪化…今のままでいい」 大阪都構想否決 市民の決断

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街頭演説で支持を訴える大阪維新の会代表の橋下(はしもと)徹・大阪市長に声援を送る有権者ら=2015年5月17日午後、大阪市中央区(沢野貴信撮影)  17日に投開票された「大阪都構想」の住民投票で、反対多数となることが確実となり、大阪市の存続が決まった。市選挙管理委員会によると、投票率は66.83%。4月の市議選(48.64%)や、橋下(はしもと)徹氏(45)が知事を辞職して出馬し知事選とのダブル選となった11年11月の市長選(60.92%)を超えた。当日有権者数は約210万4000人。

 通常の選挙と異なり、投票当日も運動が可能な大阪都構想の住民投票。17日は賛成、反対両派の「最後の訴え」が飛び交う中、大阪市民が1票を投じた。

 午前7時。大阪市西成区の「あいりん地区」内にある投票所には、開門前からすでに40人以上の長い列ができていた。一番乗りの無職、渡辺三郎さん(74)は「噂じゃ住民サービスがよくなくなるという。今のままでいい」。

 賛成票を投じた無職男性(60)は「二重行政を解消しないと経済的によくならない。住所が変わるのが面倒だから反対という人が多いけれど、子供たちの未来を考えて辛抱すべきだ」と話した。

 市内では賛成派、反対派が各所でそれぞれの主張を訴えるべく奔走した。

 城東区の投票所前では両陣営が鉢合わせ。離れた場所でビラ配りを始めた共産党の山中智子市議団幹事長(52)は「大阪市をなくしたら元も子もない。『壊すより 生かして変えよう 大阪市』です」と訴えた。

 中央区の南海難波駅前では午後1時ごろ、自民の街宣車が通りすぎた直後、橋下市長が登場。「今にとどまり、かつて(の大阪)に戻るのか。一歩を踏み出して子供たち、孫たちに素晴らしい大阪を渡していきましょうよ」と投票を呼びかけた。松井一郎大阪府知事(52)とともに約30分間に及んだ演説は「あと6時間、どうかお力をお貸しください」と締めくくられた。

 北区の市役所5階にある住民投票の担当部局、大都市局では職員6人が出勤し、電話対応に当たった。

 男性職員の一人は「結果がどちらになろうが、きちんと住民の方々が判断してくださったのであれば、今後もそれに基づいてきちんと仕事をしていくのみ」と淡々と話した。

 ≪維新の存亡危機 改憲の動きに影響も≫

 維新の党が「原点中の原点」と位置付けてきた看板政策「大阪都構想」は大阪市民の賛同を得ることができなかった。本拠地でつまずいた衝撃は大きく、圧倒的な存在感を誇った大阪市長、橋下最高顧問も引退すれば、党は存亡の危機を迎える。一方、憲法改正派の維新の減速は安倍晋三首相(60)が目指す改憲の動きにも影響を及ぼしかねない。

 「党内はガタガタになる。チャンスとばかりに民主党に手を突っ込まれる」

 大阪選出の維新幹部は住民投票の反対多数を受けてこう述べ、維新の勢力が後退する可能性に言及した。党内の約4分の1を占める民主党出身議員が古巣の誘いに乗って離党することへの懸念だ。

 民主党出身者のほとんどが昨年の衆院選での「政界復帰組」で、忠誠心はもともと強くない。現在は主流派の大阪系の発言力が低下し、党内の力学が変わることも予想される。別の大阪選出の維新幹部は「維新が民主党に吸収される方向に動き出したら大阪系は反旗を翻す」と“分党”の可能性も排除しない。

 維新のつまずきは憲法改正の動きにも影響しそうだ。首相は橋下氏を「同志」と評価し、都構想に一定の理解を示してきた。自公両党で参院が3分の2に届かない中、来年夏の参院選後に憲法改正を発議する際に維新の協力は欠かせない。憲法改正の国民投票でも「与野党の幅広い支持を得た」と訴える上で維新の役割は大きい。橋下氏も「憲法改正は絶対に必要だ。安倍首相にしかできない。できることは何でもしたい」と相思相愛ぶりをアピールしてきた。

 首相と橋下氏の思いを知る菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は、自民党大阪府連が都構想で維新と激突する中、記者会見で重ねて都構想の意義を強調。維新幹部との会食では「都構想実現後に橋下を来年夏の参院選に引っ張り出さなければダメだ。改憲の機運を高める上でも必要だ」と促していた。

 橋下氏が表舞台を去り、維新の影響力が低迷すれば、こうした筋書きは修正を迫られる。自民党と連立政権を組みながら憲法改正への慎重派が多い公明党にとっては与党内で存在感を維持できることになる。

 一方、民主党は維新の後退で野党第1党として存在感が際立つことになる。岡田克也代表(61)ら執行部は野党再編に慎重で、来年夏の参院選で与党に対抗する野党統一候補選びの主導権を握ることになりそうだ。(内藤慎二、桑原雄尚/SANKEI EXPRESS

 ■大阪都構想 大阪市を廃止し、新設する5つの特別区と大阪府で行政機能を再編する構想。大規模開発など大阪全体にかかわる広域行政を府に一本化し、特別区は福祉や教育など住民に身近な行政サービスに特化する。今回の住民投票は2012年に成立した「大都市地域特別区設置法」に基づき実施され、結果は法的拘束力をもつ。「投票運動」は公職選挙法が準用された。賛成多数となれば17年4月1日に北、湾岸、東、南、中央の5特別区が誕生することになっていた。区長や区議は選挙で選ばれ、予算や人事などは区ごとに決める。

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