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【安倍政権考】橋下氏引退へ 「同志」失い痛手

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【安倍政権考】橋下氏引退へ 「同志」失い痛手

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「大阪都構想」の住民投票否決を受けた記者会見で政界引退を表明した橋下(はしもと)徹大阪市長=2015年5月17日夜、大阪市北区(門井聡撮影)  維新の党最高顧問の橋下(はしもと)徹大阪市長(45)が掲げた「大阪都構想」が17日の住民投票の結果、反対多数で否決された。これを受けて、橋下氏は12月の市長任期満了で政界を完全に引退すると明言した。「同志」と評価してきた安倍晋三首相(60)にとって、大きな痛手となるのは間違いない。

 “痛手”は、単に今後予想される維新の低迷に伴う「憲法改正勢力の後退」という点にとどまらない。なぜなら、橋下氏は憲法改正以外でも首相と多くの理念を共有し、野党ながら背中を押してきたからだ。

 例えば教育改革だ。橋下氏率いる地域政党「大阪維新の会」の主導で大阪府と大阪市は2012年、教育行政への首長の関与を強める教育基本条例を施行した。これを首相は「まさに安倍政権が改正した新教育基本法の精神を教育現場でいかに実践していくかというものだ」(12年8月27日付の産経新聞インタビュー)と絶賛した。

 首相は教育再生を掲げた06年の第1次政権で、公共心や愛国心などを重視した教育基本法改正を実現させた。強硬に反対したのが、民主党を支える日教組だった。首相と橋下氏にとって偏向教育を続ける日教組は「共通の敵」であり、首相はインタビューで橋下氏を「戦いにおける同志」と高く評価した。

 橋下氏はまた、「公務員が国歌斉唱時に起立するのは当たり前」と主張し、府知事時代の11年6月、卒業、入学式などの国歌斉唱時に教職員に起立斉唱を義務付けた条例を府議会で成立させた。

 歴史認識でも共通点は多い。橋下氏は12年8月、「強制連行を直接示すような資料はない」とした07年の安倍内閣の閣議決定を引用し、慰安婦募集の強制性を認めた1993年8月の河野洋平(こうの・ようへい)官房長官談話を「証拠に基づかない内容で最悪」と批判した。原発政策や道州制など見解の異なる政策もあるが、外国人参政権反対や靖国神社参拝など理念にかかわることでは2人の息はおおむね合っていた。

 翻って、足下の自民党はどうか。昨年暮れの衆院解散・総選挙で大勝した同党は、国会議員の数では圧倒的に多い「1強」状態だ。しかし、各議員が党総裁である首相の理念をどれだけ共有しているかは怪しい。

 橋下氏が「証人喚問したらいい」と求めていた河野談話の主である河野氏の国会招致は、同氏が党総裁・衆院議長経験者であることへの配慮なのか、いまだ実現していない。最近は党内で河野談話の見直しが話題になることもない。

 河野氏の長男の河野太郎衆院議員(52)は今月7日の衆院憲法審査会で「自民党の憲法改正草案が理想的な法案では決してないと思っている議員が少なからず自民党の中にいる」と主張した。自民党は憲法改正を党是とし、各党に改憲を呼び掛けているが、これでは説得力もあったものではない。

 「ハト派」を自任する宏池会(こうちかい、岸田派)の武井俊輔衆院議員(40)ら若手は7日、「過去を学び、分厚い保守政治を目指す若手議員の会」を結成した。設立趣意書によると、「一部にみられるような修正主義的な過剰なナショナリズムを排し、広範な保守政治を構築する」という。谷垣禎一(さだかず)幹事長(70)は設立にあたり激励のメッセージを届け、お墨付きを与えた。

 「修正主義」が何を指すのか不明だが、首相に批判的な欧米メディアや中国がレッテル貼りでよく使う表現だ。首相は、証拠資料もない「慰安婦の強制連行」や、戦前の日本を一方的に悪と決めつけた自虐的な歴史観を、国内外に向けて正当に「修正」しようとしているに過ぎない。自民党議員ならば、不当に日本をおとしめる「修正主義」の誤解を解くべく汗をかくべきところを、むしろレッテル貼りに加担しているようにみえる。

 首相は都構想の住民投票翌日の18日、雑誌「正論」のインタビューで、橋下氏に「今後とも強いリーダーシップや国民に訴えかけていく力を生かしていただきたい」とエールを送った。やはり橋本氏の政界引退は首相にとって痛恨のようだ。(酒井充/SANKEI EXPRESS

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