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日朝拉致問題 事態打開の「一手」は

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日朝拉致問題 事態打開の「一手」は

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記者会見で日本独自の対北朝鮮経済制裁措置の延長を発表する菅義偉(すが・よしひで)官房長官=2015年3月31日、首相官邸(共同)  【安倍政権考】

 北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査をめぐる日朝交渉が、公式協議を開かずにこのまま終了する危機にひんしている。安倍晋三首相(60)が昨年7月、「かつてない(北朝鮮の)体制ができた」と日朝交渉再開の意義を意気揚々と語ったにもかかわらず、「夏の終わりから秋の初め」で合意していた北朝鮮の特別調査委員会の初回報告は先延ばしにされたままで、設置1年の7月になっても拉致被害者に関する報告は見込めそうにない状況にある。交渉を担ってきた外務省内では事態打開に向けたあの手、この手がささやかれ始めている。

 「6カ国」「圧力」

 これまでの北京の大使館ルートを通じた日朝間のやりとりや水面下の非公式協議では、拉致被害者に関する回答が見込める感触は得られていない。拉致問題の解決は安倍政権の最優先課題のため、政府内では「結果が出なければ、誰かが責任を取らなければならない」(内閣官房幹部)との声が出始めている。

 これに対し外務省は今年初め、難航する日朝交渉の局面を打開しようと、北朝鮮の核・ミサイル問題を話し合う6カ国協議の再開に向けた動きを活発化させ、「日朝」から「6カ国」へ“シフトチェンジ”を図った。幹部らが盛んに「6カ国協議は日朝交渉に資する」と対外的に主張するようになったのだ。表向きは各国の包囲網で、北朝鮮に拉致問題の早期報告を促すことが目的だ。ただ、6カ国協議になると、拉致問題はあくまで副次的な議題としかなり得なくなる。

 外務省は水面下で、6カ国協議開催に向けた関係者会議を日本で開催しようと関係国との調整に奔走したが、結局は調整がつかず、実現のめどが立たなかった。

 外務省が次に思いついたのが、北朝鮮への経済制裁や強制捜査など圧力を強化することだ。外務省幹部は3月になると、「『北朝鮮に圧力をかけた方が良い』という国内の声を追い風にしたい」と漏らすようになった。

 外務省が「圧力」に傾いたことから、警察庁の指揮の下で京都府警などの合同捜査本部は3月26日、北朝鮮からマツタケを不正輸入した外為法違反の疑いで在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長の都内の自宅を捜索した。

 警察庁はこれまで、日朝交渉が行われている中での強制捜査は慎んできた。「強制捜査のせいで、日朝交渉がうまくいかなくなった」と外務省から非難されることを危惧したことによる。さらに政府は、4月で期限が切れる輸出入の全面禁止など日本独自の対北朝鮮経済制裁措置の延長を3月31日の閣議で決定した。

 継続プランも

 それでも、日朝交渉は膠着(こうちゃく)状態が続いている。外務省からはいよいよ、調査開始から1年の節目となる7月を過ぎても交渉を継続するプランも出てきた。今夏、調査を継続する方針を北朝鮮に示すとともに、拉致問題に携わった外務省幹部らを異動させ新体制で臨む戦略がささやかれている。幹部を入れ替えることで拉致問題の態勢を立て直し、拉致問題解決に向けた政府の強い思いを改めて内外に示すということのようだ。

 北朝鮮が拉致問題を放置すれば、国際世論は厳しさを増す。国連人権理事会は3月27日、拉致問題を含めた北朝鮮の人権侵害を厳しく非難する日本と欧州連合(EU)提出の新たな決議案を賛成多数で採択した。北朝鮮は国際世論の批判を回避するため、表向きは調査継続に同意する可能性がある。それでも、北朝鮮が本気で拉致問題を進める保証はない。

 「安倍内閣で拉致問題を解決する」と明言している安倍首相は、対話を模索してもらちが明かないのなら圧力をかけていくしかないだろう。

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