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「愛の南京錠」Non!パリの決断 景観と安全破壊 世界遺産の橋で100万個撤去
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首都パリのセーヌ川に架かるポンテザール橋で始まった「愛の南京錠」の撤去作業。南京錠が鈴なりになったフェンスがクレーンで取り外された=2015年6月1日、フランス(ロイター) パリのセーヌ川に架かるポンデザール橋に、世界中からやって来た恋人たちが永遠に結ばれることを願って取り付けた「愛の南京錠」の撤去が1日、始まった。周辺を含めると、その数は100万個、総重量が45トンに達し、世界遺産の一部である橋の欄干が重みで壊れたほか、景観が損なわれているためだ。日本も含め世界各地に、愛の南京錠を取り付ける名所があり、多くの観光客を呼び集めている。一方でパリと同様に撤去に踏み切ったところもあり、集客か景観保護かの論争が起きている。
「強力な最初の一歩だ。パリは愛の南京錠を望んでいないという観光客に向けた明快なメッセージになる」
撤去を訴えてきた市民団体「ノー・ラブ・ロックス」の共同代表、リサ・アンセルモさんは地元テレビ局にこう語り、喜んだ。
1日に始まった撤去作業では、南京錠が鈴なりになったフェンスごとクレーンでつり下げ、トラックに積み込み運び出された。橋を1週間封鎖して完全に撤去し、再び取り付けられないようガラスで覆う計画だ。
ルーブル美術館前のセーヌ川に架かる長さ155メートル、幅11メートルのポンデザール橋は、ナポレオン時代の1804年にパリ初の金属製橋として建設された。一帯はユネスコの世界遺産に指定さている。
AFP通信や米CNNテレビ(電子版)によると、恋人同士が2人の名前を書いた南京錠を取り付け始めたのは2008年頃。きっかけはイタリアで06年に発刊され、翌年に映画化された恋愛小説「君が欲しい」。この中で、恋人同士がローマにあるミルヴィオ橋の街灯の下で愛を誓い、街灯に2人の名前を書いた南京錠を取り付け、鍵をテヴェレ川に投げ込む場面があった。これがローマで流行しパリに広がったという。
ところが、ポンデザール橋ではブームが過熱し、12年頃から、橋への落書きのほか、観光客向けに安い南京錠を売る業者が徘徊し、スリなどの犯罪も目立つようになった。さらに昨年6月には欄干の一部が南京錠の重みで壊れる事態に。市は8月、南京錠を取り付ける代わりに橋の上での「自撮り」を呼び掛けるキャンペーンを展開したが効果はなく、安全と景観を守るため撤去を決断した。
ただ、パリではポンデザール橋以外の11カ所の橋やエッフェル塔にも南京錠が取り付けられており、その数も100万個に上る。このため、パリ市議会は公式サイトで「世界遺産地域の劣化やパリ市民、観光客らの安全が侵されるといった問題が他の橋にも広がっている」と訴え、全面撤去を求めた。
愛の南京錠の風習は世界各地にあり、恋人たちが訪れる“聖地”となる一方、景観面などで問題化。アイルランドのダブリンでは12年に市議会が禁止条例を定めたほか、オーストラリアのメルボルンは先月、市内のサウスゲート・フットブリッジで2万個を撤去した。
日本でも04年に神戸市のビーナスブリッジで増えすぎたため、橋の近くに南京錠を取り付ける「愛の鍵モニュメント」を設置する苦肉の策をとった。
「観光業界が、愛の南京錠をロマンチックな行為として宣伝している限り、厳しい闘いは続く」
市民団体のアンセルモさんはCNNにこう語った。ところかまわず南京錠を取り付ける恋人たちの愛を断ち切るのは、簡単ではないようだ。(SANKEI EXPRESS)