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中国で大ヒット「ドラえもん」映画、登場人物に重なる国際情勢 のび太が日本、ジャイアンは?
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中国上海市で「STANDBYMEドラえもん」を上映する映画館に飾られた宣伝用の人形と記念撮影する地元の若者(河崎真澄撮影)
中国各地で5月28日に上映が始まった日本発の新作映画「STAND BY ME ドラえもん」(3D版)が、アニメ映画としては中国国内で過去最高の興行収入を記録して、大ヒットを続けている。国営新華社通信が運営するニュースサイト新華網は、「中国の観衆に子供時代の記憶を呼び起こさせている」と伝え、子供だけでなく親の世代にもドラえもん人気が根強いことを強調した。
登場人物の言動や家庭の様子などは、日本人の心情や一般の生活を中国人が知るすべになっているといえ、これだけ共感を呼ぶことに希望も感じる。
中国で日本の新作映画の上映が認められたのは、2012年9月に日本が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を国有化して関係が悪化して以来、初めて。日中関係の改善が背景にありそうだ。
ただ、ドラえもんが中国で昨年、「侵略者」呼ばわりされていたことも、しっかりと記憶にとどめるべきだろう。中国共産党機関紙の人民日報の傘下にある環球時報や、四川省の地元紙、成都日報などが昨年秋、「中国人の痛みはドラえもんではごまかされない。日本からの文化侵略だ」などと相次いでヤリ玉に挙げた事実がある。
このころ四川省成都市内で開かれていた「ドラえもんの秘密道具展示会」が大盛況だったが、この時点では中国当局が、「ドラえもんを通じて善良な日本人の姿が中国の大衆に植え付けられるのはまずい」と判断し、メディアをたきつけたようだ。
一般の中国人と共産党政権の“ドラえもん観”にはかくも開きがあり、政権側の認識の振り子は、そのときの対日関係によって大きく振れることが分かる。ただ、ドラえもんの映画がようやく上映を解禁されたからといって、中国当局が全面的に日本のアニメにゴーサインを出したというわけではない。
ドラえもん新作がヒットしている最中、今月8日には中国文化省が、国内の動画配信サイトや百度(バイドゥ)を含むネット検索会社など29社に対し、「日本のアニメは未成年者の犯罪や暴力、ポルノ、テロ活動をあおっている」との理由で38作品の配信を停止させ、警告や罰金などの処分を科した。
問題とされた作品は「残響のテロル」「DEATH NOTE(デスノート)」「寄生獣」「進撃の巨人」など。「進撃の巨人」はさらに、上海国際映画祭の一環として12日から始まる「日本映画週間」での上映が中国側の意向で9日、急遽(きゅうきょ)取り消された。
この「進撃の巨人」は都市国家で平和に暮らす人々に巨大な侵入者が襲いかかるストーリー。香港の民主派学生の間では、香港の民主社会を締め上げる中国共産党政権をイメージさせるとして人気があり、中国側は警戒を強めたようだ。
一方で、上海の大学教授があるとき、「北東アジアの情勢はドラえもんの登場人物に似ている」と冗談めかして話してくれたことがある。
日本への留学経験があるその教授は、「主人公ののび太を日本とすればガキ大将のジャイアンはさしずめ中国。ジャイアンの手下としてのび太に嫌がらせするスネ夫は韓国」とみる。
さらに「しずかちゃんは台湾で、ドラえもんは米国だろうか。ジャイアンは虎視眈々(たんたん)としずかちゃんを狙っているから、のび太とドラえもんにがんばってもらわないとね」と笑った。
そこまで国際情勢は単純ではないにせよ、政治問題が常に念頭にある中国人的な発想に興味をもった。
このとき、教授には「ジャイアニズム」という俗語も教えてもらった。「おまえの物はオレ様の物。オレ様の物はオレ様の物。声のでかいヤツが勝ち。弱いヤツにはすごんでみせる」と傍若無人に振る舞うジャイアンの姿が自己中心的な人物を表す俗語になったのだという。
のび太はジャイアンの理不尽な要求やいじめに遭ってくじけそうになりながらも、ドラえもんの力を借りて解決策を探し出す。しずかちゃんの存在がのび太の励みになることもしばしばだ。
ドラえもんほど寛容な国が実際にあるかどうかの議論は別にして、「ジャイアニズム」の典型である国が脅威になるとすれば、のび太はドラえもんと力を合わせていくべきだろう。
上海の映画館ではドラえもんの新作映画を見ようと親子連れや若者が連日のように列を作っている。ドラえもんを愛する市井の中国人は決して“ジャイアニズム”などではなく、日本と日本人に親近感を抱いていると信じたい。(上海 河崎真澄、写真も/SANKEI EXPRESS)