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アマからプロ獲得に比重 新ルール影響 大屋博行

 メジャーリーグのスカウトになって18年目のシーズンを迎える今季、転機が訪れた。

 これまでの「アマ担当スカウト」から「プロ担当スカウト」への肩書の変更だ。名前の通り、担当する対象が変わった。これまでの高校生や大学生、社会人といったアマチュア選手を中心としたスカウト活動から、フリーエージェント(FA)やポスティングシステム(入札制度)によって米大リーグ移籍をうかがう日本のプロ野球選手の視察がメーンの仕事へと移った。

 日本国内でブレーブスのスカウトは私だけ。これまでもプロ、アマ問わずに視察してきたのだが、プロの比重を高めた背景には、メジャーリーグが海外のアマ選手獲得に関する制度を変更したことが関係している。

 5月までに個人情報登録

 実は、メジャーの球団は1995年9月1日以降に生まれた海外のアマチュア選手を獲得する場合、メジャーリーグ機構(MLB)コミッショナー事務局に対し、5月までに選手の個人情報を事前登録しなければならない新ルールが設けられた。日本国内では最近まで報道されていなかったため、このことを知らない野球ファンも多かったのだが、海外ということで、もちろん日本の選手も対象になっている。

 スカウト活動への影響は大きい。5月といえば、まだアマチュア選手にとってはシーズンが本格化していない時期だ。夏の甲子園大会の予選すら行われていない。最大の障壁となるのが、事前登録に必要な提出書類に、選手の氏名や在籍校などの基本情報に加え、出生証明書かパスポートの写しが含まれていることだ。選手が在籍する学校を通じて、選手の家族から個人情報に関する重要書類を入手しなければならないのだ。

 日本には、学生野球憲章があり、プロ志望届を出していないアマチュア選手に対し、メジャーを含むプロの球団が接触すれば規定違反となり、選手や関係者が処分を受けてしまう。

 2012年の大谷翔平選手(日本ハム)を例に取ればわかりやすい。大谷選手は秋に一度はメジャー挑戦を表明した。しかし、新ルール適用後であれば、大谷選手を獲得したい球団は5月までに大谷選手と接触して出生証明書などを入手して、MLBに提出しておかなければならない。大谷選手が表明しても、提出できていない球団は獲得に動けないのだ。

 もし提出していれば、大谷選手と事前に接触していたとして、プロアマ規定の違反とみなされるだろう。日本国内では、規定とメジャーの新ルールがダブルスタンダードになっていて、両方をクリアする方法は現状では見当たらない。

 私を含め、メジャーの駐日スカウトがプロ担当へシフトするのは、こうしたやむを得ない事情がある。

 相次ぐ年齢詐称が背景に

 MLBが新ルールを設けた背景には、中南米などから渡米する選手が年齢を詐称していたケースが相次いだことがある。アジアも適用範囲に含まれたが、メジャー希望が多い韓国、台湾などは選手側が協力的だそうだ。

 ブレーブスは昨季、ナ・リーグ東地区で2位。ただ、成績は負け越しで首位のナショナルズに17ゲームもの大差をつけられた。チームの伝統は選手の発掘と育成で、これまでは巨額な資金を投じるFA市場にはあまり積極的ではなかった。日本国内でのスカウト活動も同様だったが、今回の新ルールの導入もあり、即戦力のプロ選手獲得に比重を置いたスカウト活動へと舵を切らざるを得なかった。

 「ダイヤの原石」発掘に力を入れてきた私としては、残念な気持ちもあるが、新たな仕事では即戦力を獲得できるだけにやりがいも感じる。

 日本の12球団に在籍する選手数は800人程度。このうち、メジャーでも通用するクラスに絞ると、10~20人になる。この中から海外FAの権利取得の時期や、入札制度による移籍の可能性を探って、獲得可能な選手を絞っていく。

 ブレーブスが日本球界からFAで獲得したのは、川上憲伸(けんしん)投手(中日)だけで、メジャー球団を経て移籍した選手を含めても斎藤隆投手(楽天)と2人だけ。日本からの移籍市場に球団としてどこまで本腰を入れていくかは、まだ私自身もわからないことが多いが、獲得の下地となる選手リポートの信頼性を高めるため、日々の視察に力を入れていきたい。(アトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当/SANKEI EXPRESS

 ■大屋博行(おおや・ひろゆき) ?1965年10月生まれの49歳。大阪府出身。高校中退後に渡米し、アリゾナ州スコッツデール市立コロナド高校で投手としてプレー。コロナド高を卒業後に帰国し、プロ野球阪神で練習生、歯科技工士などを経て98年に米大リーグ、アリゾナ・ダイヤモンドバックスの国際スカウト駐日担当に就任。2000年からアトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当として日本国内の選手発掘に励む。

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