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AIIB 比など7カ国署名見送り 中国が単独「拒否権」 見えにくい透明性

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AIIB 比など7カ国署名見送り 中国が単独「拒否権」 見えにくい透明性

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アジアインフラ投資銀行設立協定の署名式で、記念写真に納まる中国の習近平国家主席(前列中央)と創設メンバー国の代表ら=2015年6月29日、中国・首都北京市西城区の人民大会堂(ロイター)  中国が主導する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー57カ国は29日、設立協定の署名式を、北京市内の人民大会堂で行った。メンバー国は今後、それぞれ国内に戻って批准手続きを行い、年内に正式発足する見通しだ。ただ、フィリピンなど7カ国はこの日の署名を見送った。

 南シナ海問題に反発か

 中国側は「署名できなかった7カ国も、国内の手続きを経て年末までに署名する」と説明した。フィリピンは領有権を争う南シナ海で、中国が岩礁の埋め立てを強行したことに反発し、署名に難色を示したもようだ。米国や日本は参加を見送ったが、英国やドイツなどはメンバーに加わり、先進7カ国(G7)でも対応が分かれた。

 AIIBの資本金は1000億ドル(約12兆3000億円)で中国が最大の297億8000万ドルを出資する。中国の持つ議決権の比率は26.06%で、運営上の「拒否権」を握る。本部は北京に置く。中国財政次官やアジア開発銀行(ADB)副総裁を歴任した金立群AIIB設立準備事務局長(65)が初代総裁に就く方向で、国際金融機関ながら中国色の極めて濃厚な組織となる。

 中国の楼継偉財政相(64)は署名式で「中国がアジアと世界の経済発展に国際的な責任を引き受ける重要な取り組みだ」と強調した。

 習近平国家主席(62)が提唱した「新シルクロード構想」のルート上に重なる広域アジアのインフラ建設需要は、2020年までに8兆ドル規模と試算されている。AIIBは建設案件への資金供給源として中心的役割を果たす。

 インフラ建設をてこにする習氏の周辺外交は「中国版マーシャルプラン」と評される。中国はインフラ外交で、国際社会での発言権を高める狙いだ。(北京 河崎真澄/SANKEI EXPRESS

 ≪中国が単独「拒否権」 見えにくい透明性≫

 AIIBは、日米欧が中心の世界銀行やADBなど、既存の国際金融機関とは異質な利益最優先の組織だ。銀行運営の「透明性」に懸念もあり、国際社会から信頼を得られるかが課題となる。

 中国財政省が29日に公表したAIIB設立協定によると、最大出資国の中国は資本金1000億ドルのうち、約29.8%の297億8000万ドルを拠出する。以下インド8.4%、ロシア6.5%。ドイツ4.5%と続く。中国の議決権は出資比率よりやや下がって26.06%だが、増資や新規出資国の承認など重要事項の決定には全体の75%以上の賛成が必要となり、中国は単独で「拒否権」を握る。

 中国が自らの意思を反映できる国際金融機関の創設に動いたのは、世銀やADBの融資に不満を抱いたからだ。ADBなどは、融資案件に環境評価や人権保護などで厳格な基準を突き付ける。柔軟性や迅速性に欠けるとの中国の批判に、アジアや中東などの創設メンバー国も同調した。

 AIIBは12人の非常駐の理事が電子メールなどで連絡を取り合う持ち回り会議でスピーディーな意思決定を売りにする。だが、北京に本部を置き、初代総裁も自国から出す中国の発言権が強まるのは明白だ。国際金融機関の名のもとで、習近平指導部の意向を受け、軍事転用も可能な空港や港湾の建設などにも簡単に融資されるリスクがある。

 また途上国が、審査の手軽なAIIBに資金支援を求めてなびく懸念もある。ある経済アナリストは「世銀やADBを既存の大手航空会社とすれば、AIIBは安全運航経験のない新参の格安航空会社(LCC)」と指摘した。安易な融資が焦げ付けば不良債権の山を生む恐れがある。

 国内の個人消費や輸出が低迷する中国にとって、AIIB経由のインフラ投信で、鉄鋼製品や建設機械などの国内在庫が解消し、収益も上がる仕組みは理想的だ。しかし国際金融機関としての透明性や公平性は見えにくい。

 日本政府も「不明な点が多い」(政府高官)として当面は距離を置く立場を維持する構えだ。独自にアジアのインフラ整備拡充を図り、日本の技術力を生かす「質の高いインフラ投資」による貢献を目指す。昨年11月から4度の利下げに踏み切るなど中国経済の先行き懸念も重なり、政府内には「中国は問題を抱えながら走っている」と冷ややかな声も漏れる。

 政府がAIIBへの参加を見送ったのは「(借り入れ国の)返済能力以上の資金供給や不適切な事業は避けなければならない」(安倍晋三首相)との考えが根底にある。

 AIIBには(1)公正なガバナンス(統治)(2)透明な融資基準(3)インフラ整備の際の環境・人権への配慮-の確保などを求めてきたが、中国側の回答は明確ではないという。国際金融筋は「(既存機関の審査で)一番時間を要するのが環境審査と住民への影響調査。AIIBがそこを飛ばすと、世界の銀行は一緒に仕事ができない」と語る。

 中国がAIIBで説明責任を果たせるか。国際社会は注目している。(SANKEI EXPRESS

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