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私たちの記憶として再想像する 「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から」

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私たちの記憶として再想像する 「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から」

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1950年代~60年代の少年マンガ誌とその別冊付録。特にボーイズカルチャーにおいては「戦争」があふれかえっていたことがよくわかる(提供写真)  【アートクルーズ】

 敗戦から70年がたった。戦争を生き延びた人たちの多くも鬼籍に入り、いまや〈彼ら/彼女らの体験〉に耳を傾けるのではなく、〈私たち自身の記憶〉として70年前のことを〈再想像〉しなくてはならない時代に突入している。

 残酷表現と悲劇を求める欲望

 体験していない戦争を〈想像〉するにあたって、戦後無数に描かれてきた「戦争マンガ」は私たちに豊かなヒントを与えてくれるだろう。「戦後」文化として花開いたマンガは、戦争の体験から大きな影響を受けている。それらを読み解くことで、日本人が、戦争というものに対して、どのように向かい合ってきたか、そして、今後どのように向かい合っていくべきかを知ることができるかもしれない。

 マンガを含む大衆文化にはまた、学校などでは決して表に出てこないような、戦争というものに対する人々の複雑な思いがダイレクトに反映することがある。誤解されるのを覚悟で言えば、多くの戦争マンガは、平和を切に願う一方、どこかで、残酷な表現や他者の不幸を娯楽として楽しみたいとも考えてしまう私たち読者の欲望によって支えられている。しかし、本展の監修者で評論家の呉智英のことばを借りれば、「それが人間」なのだ。戦争のことを考えるとき、私たちは、こうした欲望についてこそ考える必要がある。

 作られた社会背景

 それゆえ、本展では、これまでの戦争マンガ展ではあまり取り上げられなかった作品を数多く採用している。

 具体的には、【原爆】【特攻】【満州】【沖縄】【戦中派の声】【マンガの役割】という6つのテーマを、2つの軸によってそれぞれ4象限に分け、24の「戦争マンガ」-手塚治虫や水木しげるの自伝的作品から松本零士、里中満智子の特攻マンガ、小林よしのり「戦争論」や学習マンガまで-を、作品ページ(複製)と関連資料で紹介した。

 関連資料は、作品が作られた社会背景を私たちに教えてくれるだろう。例えば、【特攻】コーナーには1950~60年代の少年マンガ誌が展示されているが、それらをひもとくと、第二次大戦中を舞台に主人公の少年兵が敵のアメリカ兵をやっつけるといった「戦記マンガ」や、兵器をマニアックに解説する図説グラビアにあふれていたことがわかる。雑誌の表紙や玩具の広告ページにも零戦や戦艦大和が誇らしげに登場し、いつの時代の雑誌なのかわからなくなる。

 少年マンガ誌におけるこうした状況は、『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった中沢啓治「はだしのゲン」が平和教育の“聖典”となっていく70年代にはなりをひそめることになる。しかし、「戦記マンガ」の末裔(まつえい)は、90年代以降も、いわゆるコンビニマンガ本の中で生き残っている。また、残酷で波瀾(はらん)万丈なドラマが求められるコンビニ向けレディースコミック誌にも、戦争は、格好の題材としてしばしば取り上げられているのである。

 〈いま・ここ〉でこそ

 2000年代に入ると、〈いま・ここ〉でこその視点や表現を持った新しい「戦争マンガ」が同時多発的に登場する。本展では、その代表作家として、おざわゆき、今日マチ子、こうの史代の3人を取り上げ、彼女たち-全員女性というのは、必然的偶然だ-の美しく力強い原画約60点を紹介している。

 こうのによれば、彼女が戦争をテーマにした作品を発表したのは、戦争体験者の減少が深刻化していた当時、体験者のことばの代わりとして、戦後作られてきたある戦争の言説が、たったひとつの正しい語り方として固定化されそうになっていたことに違和を感じたからと言う。戦争の現実は、もっと多様だったはずだ、と。

 エッセーマンガを得意としてきたおざわ(64年生まれ)やこうの(68年生まれ)の「戦争マンガ」は、ご飯を食べたり、流行歌を歌ったりといった銃後の日々を丁寧に描くことで、当たり前だが、戦争中にも、私たちと同じような「日常」を生きてきた人たちがいたことを気付かせてくれる。

 少女時代の独特のメンタリティーを、きわめて現代的な感覚で描き続けている今日(80年生まれ)の手になる戦争マンガは、主人公の少女たちの死が〈いま・ここ〉で起きていることであるかのような痛々しさを突きつけるだろう。

 重要なのは、70年前のことを〈想像〉するための〈リアリティー〉を、作品に見いだす感性だ。本展は、その感性を磨くトレーニングの場となってくれるだろうか。(京都精華大学国際マンガ研究センター イトウユウ/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から」 9月6日まで、京都国際マンガミュージアム(京都市中京区烏丸通御池上ル)。大人800円、中学・高校生300円、小学生100円。7月15日、9月2日のみ休館。問い合わせは(電)075・254・7414。

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