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【ギリシャ危機】「砂上の合意」ユーロ限界露呈 EU、ギリシャ支援交渉開始 離脱は回避

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【ギリシャ危機】「砂上の合意」ユーロ限界露呈 EU、ギリシャ支援交渉開始 離脱は回避

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ユークリッド・ツァカロトス財務相(左)とともに会議場を後にするギリシャのアレクシス・チプラス首相。EU(欧州連合)の支援合意に、表情は柔和だった=2015年7月13日、ベルギー・首都ブリュッセル(ロイター)  欧州連合(EU)は12日から13日にかけてブリュッセルで緊急のユーロ圏首脳会議を開き、財政危機に陥ったギリシャに対する金融支援実施に向けた交渉を始めることで原則合意した。ギリシャ側が支援の前提として提出した財政再建策の一部を先に法制化することなどを条件とした。支援実現への道筋がついたことで、ギリシャの財政破綻やユーロ圏離脱は当面、回避される方向となったが、根本的解決には遠いのが実情だ。さらに、問題の本質はギリシャではなく、ユーロそのものにあるとの声も上がっている。

 3年で11.7兆円規模

 ギリシャは支援交渉の開始のため、15日までに付加価値税(VAT)増税や年金改革などの関連法を国会で成立させる一方、ドイツなど議会承認が必要なユーロ圏諸国は国内手続きを進める。これらを週内に済ませた後、支援の具体化に向けた交渉を正式に始める。一方、ユーロ圏財務相会合はギリシャの短期的な資金需要を支えるため、「つなぎ融資」についても緊急に協議するとした。

 合意によると、支援の規模は3年間で最大860億ユーロ(約11兆7000億円)。EU側は当初、ギリシャ側が提出した再建策に基づき必要額を740億ユーロと試算していたが、資本規制を導入するなどしたギリシャ経済の一段の悪化を反映し増額したとみられる。

 EUのドナルド・トゥスク大統領(58)は13日、首脳会議後の記者会見で「合意により、ギリシャは欧州のパートナーの支援を受けて再び軌道に乗ることになる」と表明。ジャンクロード・ユンケル欧州委員長(60)は「ギリシャのユーロ圏離脱はなくなった」との認識を示し、ギリシャのアレクシス・チプラス首相(40)もユーロ圏離脱は「過去のものになった」と述べた。

 ただ、今回の合意は、各国の異なる本音と建前が複雑に交錯する中で築かれた“砂上の楼閣”ともいえる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)が「メリットがデメリットを上回る内容だ」と語った、合意が妥協の産物だったことを表す言葉が現実をよく伝えている。

 ギリシャはこれまで、財政赤字削減ができずに何度も行き詰まってきた。今回金融支援再開が決まっても、債務が返済できず同じことの繰り返しになる懸念がある。また、ギリシャの国民にすれば国民投票までしたのに緊縮策受け入れでは、チプラス政権に対して裏切られたという感情を持っても不思議ではない。政権基盤が揺らぎ、政局や選挙になだれこむようだと先行きは全く不透明になる。

 構造問題を指摘する声

 問題の本質は、ギリシャのだらしなさではなく、ユーロが宿命的に抱える構造問題だとの指摘も根強い。

 そもそもユーロ誕生には、欧州統合の強化・象徴という理念的側面の他に、統一ドイツが欧州で突出して強大になるのを防ぐために当時の指導者たちがドイツ封じ込めの仕組みとしてユーロを用意したという極めて現実的な側面がある。特にユーロ導入に熱心だったのは、統一ドイツを恐れたフランスであり、今回のギリシャ騒動でも、ユーロ死守に最もこだわった。

 翻ってドイツの一連の言動の陰には、「ユーロ圏崩壊容認→マルク復活」という本音中の本音である夢の道筋が見え隠れした。

 当初から、経済格差が大きい国々が単一通貨を導入することには無理があった。ギリシャを本来ならばできるはずもない巨大な借金を容易にできる世界に引き込んでしまったのが、問題の始まりだったといえる。(SANKEI EXPRESS

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