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【ギリシャ危機】EU「裏切られた」 切り捨て論台頭 危機波及は限定的の声も
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ギリシャの国旗を振って、財政再建策への「反対」が多数を占めた国民投票の結果を喜ぶ若者たち=2015年7月5日、ギリシャ・首都アテネ(ロイター) 「大きな勝利だ。国民の勇敢な決断に感謝する」。ギリシャの国民投票で、欧州連合(EU)などが求める財政再建策に「オヒ(ノー)」を突きつけた5日深夜、チプラス首相はテレビ演説で静かに勝利を宣言した。EUとの困難が待ち受ける交渉を思い描いていたのか、最後まで笑顔はなかった。
アテネ中心部のシンタグマ(憲法)広場には市民ら約6000人が集まり喜びに酔った。
2009年の債務危機以降、ギリシャでは、日本の消費税に相当する付加価値税が23%まで引き上げられた。年金は削減され、受給開始年齢は65歳から67歳に。燃料や酒、たばこなど身近な物品も増税された。
しかし、緊縮策の末に訪れた現実は厳しかった。10%未満だった失業率は25%を超え、経済規模は4分の1を失った。反対票を投じた人々には、「暮らしが上向かないのに、まだ痛みに耐えろというのか」という思いがにじむ。
半面、国民の多くは単一通貨ユーロ圏に残りたいと願っているとの世論調査結果がある。他のユーロ圏諸国には、こうした思いが“身勝手”に映る。
「チプラス氏の瀬戸際外交は“勝利”とはほど遠い」。アテネの消息筋はこう語り、ため息をついた。
チキンレース。欧米メディアはしばしば、約5カ月に及んだギリシャとEUの協議を度胸試しのゲームになぞらえてきた。チプラス政権は1月、財政緊縮策への国民の不満を追い風に総選挙で勝利して発足。ユーロ圏諸国は2月下旬、金融支援の4カ月延長を決定したが、チプラス政権は付加価値税の増税などを含むEUなどの再建策は、「不合理」だと抵抗し続けた。
チプラス首相は6月22日、付加価値税と法人税の税率引き上げなどを盛り込んだ再建案を提出。一方で27日に突然、国民投票の実施を表明した。投票日は支援枠組みの期限が過ぎた後の7月5日だった。EUのユンケル欧州委員長は「裏切られた」と不信感を隠さなかった。
もっとも、ユーロ圏諸国は危機の波及を最小限に防ぐ布石も打っていた。09年には、ギリシャが抱える3000億ユーロ(約40兆円)とされる長期債務の大半を民間銀行が保有していた。しかし10、12年の2度にわたる支援で、債権は国際通貨基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)に移し替えられた形となった。
ギリシャ発の「信用不安の連鎖」を防ぐ措置を取ったユーロ圏諸国。今後、ギリシャに歩み寄ることは考えにくく、切り捨て論が広がっている。
国民投票のほぼ1カ月前。ドイツの古城エルマウ城で開かれた主要国首脳会議(G7、サミット)で、世界経済などを討議する「セッション1」が始まった直後、ちょっとしたハプニングがあった。
EU首脳の一人が手を挙げ、ギリシャ危機についていきなり発言した。「ユーロはどうなる」といった議論が約20分続いた。セッション冒頭で演説したオバマ米大統領は、リスク要因もあるとしながらも、「世界経済も米国経済も調子がいい」と述べ、影響は限定的との見方を示した。(アテネ 内藤泰朗、ボン 宮下日出男/SANKEI EXPRESS)
≪市民「誇り示した」「将来暗い」≫
「新たな民主主義の始まりだ」。古代民主制の発祥地ギリシャの市民は、アテネ中心部の広場に集まり、青と白の国旗を振り回し歓声を上げた。ただ、熱狂から一夜明けた6日のアテネでは、街中の現金自動預払機(ATM)に行列が続き、現金切れも出始めた。誇りを胸に再建策を拒絶した市民の間には、現実を前に高揚感の名残と未来への不安が交錯する。
国会議事堂に面したシンタグマ広場。5日夜の投票締め切り直後に反対派の優勢が伝えられ、勝利を確信した人々が続々と集まった。国旗や「OXI(オヒ)」の旗が翻り、「ギリシャから新たな民主主義が始まった」と拡声器で叫ぶ支持者に群衆が大歓声で応えた。熱狂は6日未明まで続いた。
「賛成しても反対しても困難な状況に変わりはない。私たちは国民の誇りを示したの」。6日朝、同じ広場のATMに並んだ女性事務員マクロブル・スタブロラさん(41)は振り返る。ただ、日常生活を取り巻く状況は厳しさを増している。6月29日から銀行はほぼ営業を停止し、預金引き出しが制限されたままだ。当初は1日60ユーロ(約8100円)が引き出せたが、現在は50ユーロ。一部では現金が切れ、ATMを探し回る市民も。反対票を投じたスタブロラさんも「将来は暗いわ」とつぶやいた。(共同/SANKEI EXPRESS)