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ギリシャ「延滞国」 EU金融支援打ち切り 国民疲弊、強まる緊縮「賛成」の声

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ギリシャ「延滞国」 EU金融支援打ち切り 国民疲弊、強まる緊縮「賛成」の声

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首都アテネの国会議事堂前でデモ行進する市民たち=2015年6月30日、ギリシャ(ロイター)  国際通貨基金(IMF)は6月30日(日本時間1日)、財政危機に陥ったギリシャに対する融資16億ユーロ(約2200億円)が返済されなかったと発表した。同日が返済期限だった。IMFはギリシャを返済が遅れた「延滞国」に認定し、同国は事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。

 英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は1日、ギリシャのチプラス首相が、欧州連合(EU)などが求める財政再建策を条件付きで受け入れるとの譲歩する内容の書面を6月30日にEU側へ送ったと伝えた。ギリシャ首相府は、EU側が提示した再建策を条件付きで受け入れるとの書面を首相が送付したと認めた。同紙によるとチプラス氏は書面で、望む変更点として、離島に対する付加価値税の軽減措置の維持などを提示した。

 EU側の金融支援は1日失効した。2010年以来続いてきた支援がなくなり、ギリシャ財政は破綻の瀬戸際に追い込まれた。EUは同日、対応を協議するためユーロ圏の財務相らによる電話会合を開く。欧州中央銀行(ECB)も理事会を開く予定。

 オバマ米大統領は6月30日、財政危機について「金融システムに深刻なショックを与えるものではない」と述べ、市場への影響は限定的との認識を示した。一方、市場関係者の間ではギリシャがユーロ圏から離脱を迫られるとの懸念も高まっている。

 IMFは6月30日に声明で、ギリシャから返済期限の延期要請を受け取ったことを明らかにし「認めるかどうか理事会で検討する」とした。その上で「債務が完済されるまで新たな資金援助は実施しない」と表明した。先進国で「延滞国」となったのはギリシャが初めて。

 IMFやEUの支援がなければ、7月中に期限を迎える欧州中銀への国債償還や、円建て債券(サムライ債)の償還資金を確保するのは困難で、対外債務を支払えない。

 EUのユーロ圏の財務相らは6月30日、新たな支援要請を受け臨時の電話会合を開き、現行の支援の延長を認めず終了した。ギリシャはEUが求める緊縮策の賛否を問う国民投票を5日に予定している。(共同/SANKEI EXPRESS

 ≪国民疲弊 強まる緊縮「賛成」の声≫

 財政危機に陥ったギリシャは6月30日、IMFに債務を返済できず先進国初の「延滞国」となった。EU側の支援も打ち切られた。ギリシャが今後、デフォルトを回避するには、財政緊縮策を受け入れてEUに新たな支援を仰ぐほかない。合意を促す各国からの圧力も強まっている。危機収束へぎりぎりの交渉が続いた。

 菅官房長官「早い解決を」

 「財政は危機的状況にあり、わが国は緊急事態に直面している」。IMFへの債務16億ユーロ(約2200億円)の返済期限を目前に控え、ギリシャのチプラス首相は声明を発表し、EU側に新たな支援を要請した。

 「扉はまだ開いている」(ドイツのメルケル首相)と秋波を送り続けてきたEU側は急転直下の合意を期待して6月30日夜(日本時間1日未明)に臨時の電話会合を行ったが、ギリシャは支援条件の財政緊縮策を拒否。最悪の事態を回避できなかった。

 しかし、EUとの交渉がまとまらなければ、ギリシャは今後も対外債務を支払えない。デフォルトが相次げば、落ち着きを取り戻した国際金融市場が揺さぶられる恐れもある。「一刻も早い解決を期待する」(菅義偉(すが・よしひで)官房長官)との各国の声は日に日に高まっている。

 チプラス首相は4月と6月にロシアを訪問してプーチン大統領と会談。ウクライナ危機でEUと対立するロシアとの蜜月ぶりを演出し、EUを揺さぶる「奇策」に打って出たが、支援打ち切りというEU側の「兵糧攻め」にギリシャ国民は疲弊。銀行預金の引き出しもままならなくなった暮らしに不安を募らせる。

 「ここまで来たら譲歩するしかない。ユーロ圏から出たらギリシャは大変なことになる」とディミトリス・クリストプロスさん(67)。5日の国民投票でEUの緊縮策に賛成票を投じるとの声が急速に広がり始め、チプラス首相を追い詰める。ギリシャ首相府は1日、同首相が緊縮策を条件付きで受け入れるとの書面をEU側に送付したと明らかにした。

 見当たらぬ即効薬

 しかし、EUとギリシャが歩み寄って危機を回避したとしても、ギリシャが慢性的な財政赤字を解消するのは容易ではない。国内に競争力のある製造業がなく、税収不足が続いているためだ。汚職や脱税も深刻で、2009年には当時のパパンドレウ首相が前政権の財政赤字粉飾を暴露して世界を驚かせた。

 野村証券の木下智夫チーフ・エコノミストは「経済を再生させるには、年金の支給開始年齢の引き上げなどで歳出を減らし、財政収支を均衡させることが不可欠だが、国際競争力のある製造業がないため先行きは厳しい」と指摘する。

 オバマ米大統領は「ギリシャがユーロ圏にとどまって経済成長できる解決策を探す必要がある」と強調するが、「ギリシャには財政赤字を減らしてユーロの信認を維持する実力はない」(国際金融筋)。一方、ユーロ圏から離脱して旧通貨ドラクマを復活させた場合には、ユーロに比べて通貨価値が大幅に下がるため、輸入物価が高騰して国民の暮らしは打撃を受ける。

 ギリシャの「悲劇」は繰り返される恐れがあるが、終止符を打つ即効薬は見当たらない。安倍晋三首相は「先進7カ国(G7)で、混乱を起こさないようしっかり対応しようと確認している」と強調した。(共同/SANKEI EXPRESS

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