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【ギリシャ危機】事実上デフォルトへ 「みんな政治家を信じていない」
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6月29日、ギリシャ・首都アテネの集会に参加した人々=2015年(ゲッティ=共同) ギリシャ政府は30日、国際通貨基金(IMF)に対する約16億ユーロ(約2200億円)の返済期限を迎えた。ギリシャのアレクシス・チプラス首相(40)は6月29日、返済はほぼ不可能との認識を示し、事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥る可能性が高っている。この日期限を迎えた欧州連合(EU)の金融支援も失効する可能性が高く、ギリシャ情勢は厳しさを増している。
チプラス氏は29日、公営テレビに出演し、「自国の銀行が窒息しそうなときに支払いを期待できるのか」と強調。IMFへ返済する可能性は排除しないとしながらも、EU側からの支援合意の申し出がなければ返済は不可能だと表明した。
IMFへの返済では通常1カ月の猶予があるが、クリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)は「7月1日でデフォルトだ」とギリシャに警告しており、IMF側の判断が注目されている。IMF側は返済期限を欧州中央時間の1日午前0時(日本時間1日午前7時)としている。
金融支援をめぐっては、EU側とギリシャ側が「対話の用意」を示すが、失効回避への打開は見いだせていない。ギリシャ側は支援条件の財政再建策の賛否を問う5日の国民投票の実施のために短期間の支援延長を求めるが、EU側は引き続き拒否している。
ギリシャは残る72億ユーロの支援を受けられなければ、財政が破綻する恐れが指摘されている。公務員給与や年金の支払いなどのため政府が借用書などを発行し、最悪の場合、ユーロ圏離脱に至る恐れもある。国内では不安が強まり、預金流出が加速。政府は資本規制も導入した。
チプラス氏は6月29日、国民投票で再建策が支持された場合の退陣も示唆。政情が流動化すれば、混乱の長期化にもつながりかねない。(アテネ 内藤泰朗、ベルリン 宮下日出男/SANKEI EXPRESS)
≪「みんな政治家を信じていない」≫
「この先、いったいどうなるのか」-。EUの対ギリシャ金融支援の期限切れを迎えた30日、ギリシャでは、経済の先行きに対する国民の不安が渦巻いていた。
ギリシャ政府は6月29日、銀行からの引き出し額を1日60ユーロ(約8200円)に制限。国民は政府や銀行への信頼を急速に喪失しつつあった。
30日午前、国際的な観光地のアテネ中心部では、観光客の姿はほとんど見られず、警察官の姿ばかりが目立つ。前日からシャッターを閉じたままの銀行の現金自動預払機(ATM)の前には朝から行列ができた。
「いつまで統制が続くかわからないぞ」「20ユーロしか引き出せなかった人もいたそうだ」「年金はちゃんと銀行口座に振り込まれたらしい」…。
人々の間では、真偽不明の噂や憶測が飛び交う。
アテネ中心部のタベルナ(食堂)のマネジャー、ステラさん(32)は、「将来に不安がある」とした上で、母親や高齢の年金生活者たちが銀行からおろした現金をマットレスの下に隠して蓄えていることの方が心配だと語った。
「すべてを現金化して持ち歩いている人や、ベッドに隠している人もいるが、泥棒や強盗に狙われるだけ。それでもみんな政治家や銀行を信じていない。観光客も減っている。チプラス首相を信じたが、ユーロ圏を離脱しても、旧通貨のドラクマに戻っても、苦しいのは何も変わらない」
ステラさんは、EU側の財政再建案への賛否を問う5日の国民投票で、緊縮か反緊縮か、どちらに投票すればいいか分からなくなったと首を振った。
アテネ中心部の広場は6月29日夜、反緊縮財政路線のチプラス首相を支持する市民デモが行われ、数万人の人々で埋め尽くされた。参加者は緊縮に「ノー」を投じようと気勢を上げた。
首相は29日夜、IMFへの債務返済は事実上不可能との認識を示し、ギリシャがデフォルトに陥る恐れは増した。それでも「子孫がユーロの奴隷となるのは阻止しなければならない」「失うものはもう何もない」との声も聞かれた。
ただ、世論調査では、EUの緊縮策を受け入れてユーロ圏への残留を望む声も多い。銀行の営業停止という異常事態は、チプラス氏を支持する失業者や年金生活者、左派系の労働者にも打撃を与えている。
在アテネの消息筋は、「EUの改革案が国民投票で支持された場合、チプラス氏は辞任すると言っている。そうなれば、民族主義に傾倒した極右政党『黄金の夜明け』などが台頭してくる懸念もある。ギリシャの危機は、これからが正念場だ」と語った。(アテネ 内藤泰朗/SANKEI EXPRESS)