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【ギリシャ危機】ギリシャ支援「合意」 「勝者なき決着」 亀裂深まるEU
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ユーロ圏首脳会議後に記者会見するドイツのアンゲラ・メルケル首相=2015年7月13日、ベルギー・首都ブリュッセル(ロイター) ギリシャ支援再開を議論した欧州連合(EU)のユーロ圏首脳会議は、財政再建策に理解を示すフランスなどの南欧諸国と、強硬派のドイツ、フィンランドの「南北対立」が激化し、徹夜のマラソン協議となった。一応の合意には達したものの、「勝者なき決着」はEU内の亀裂をもたらした。ギリシャの財政危機がこのまま解消に向かうかも予断を許さない。
「今回の妥協には勝者も敗者もいない」。ユンケル欧州委員長は会議後、17時間に及んだ議論を総括した。「ギリシャ国民は辱められていないし、他の欧州の人々も面目をつぶされていない。これは典型的な欧州流の解決だ」
「一時的なユーロ離脱というものはない」。首脳会議でフランスのオランド大統領は、ギリシャをユーロ圏から5年間離脱させるというドイツの提案を強く否定した。
ギリシャに厳しい対応を求める世論を背景に、ドイツは財政改革の確約を迫り続けた。ギリシャのユーロ圏残留を重視するフランスとの溝は埋まらず、EUの両大国の対立がマラソン協議の一因となった。
首脳会談に先立つユーロ圏財務相会合では、フィンランドも合意文書へのサインを拒否した。議論が感情的になり、欧州中央銀行のドラギ総裁の発言に対し、ドイツのショイブレ財務相が「私はバカではない」と激高する場面もあったという。
ユーロ圏は発足当初から、ドイツやオランダ、北欧諸国など財政基盤が強固な「北側」と、イタリアやスペインなど財政難の南欧諸国との対立を抱えていた。金融政策を一本化した一方、財政政策は各国に委ねるという構造的な欠陥が、今回も問題解決の大きな障害となった。首脳会議でも「ギリシャのユーロ離脱のリスクが一時高まった」とイタリアのレンツィ首相は明かす。
経済破綻の危機に直面しているギリシャは、最終的に財政再建策の一部を15日までに法制化することや、国有資産売却などの要求をのんだ。
ドイツもギリシャが財政破綻すれば887億ユーロ(約12兆円)の損失を被るとされ、ひとまず矛を収めた。メルケル首相は今回の合意を「メリットがデメリットを上回る内容だ」と説明した。
ギリシャでは、緊縮策を受け入れたチプラス首相への不満もくすぶるが、大規模な抗議デモには発展していない。怒りよりも不安の感情が国民に広がっている。
国民投票で反対票を投じた人々も、緊縮策からの解放が難しいことはうすうす承知している。「苦しくても我慢するしか道はない」。銀行閉鎖や医薬品の不足など生活への影響が拡大するにつれ、ギリシャ経済が破滅に向かっていることを肌身で感じている。
13日の東京株式市場はギリシャのユーロ圏離脱が回避されたとの見方から、平均株価は2万円の大台を回復した。しかし、野村証券の岸田英樹シニアエコノミストは「ギリシャの資産売却や債務減免交渉は難航する可能性が高い」と予想する。
第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストも「債権者側とギリシャの信頼関係は損なわれた」と指摘。今月20日に迫る巨額の国債償還は「ギリシャの改革法制化などの手続きが遅れる可能性もある」とし、デフォルト(債務不履行)の懸念は残ると警告している。(SANKEI EXPRESS)
≪「銀行再開うれしい」「客は戻らない」≫
「銀行が開くのはうれしい。でも…」。ユーロ圏首脳会議の合意が伝えられた13日、アテネ市民は安堵と不安の入り交じった複雑な心情を口にした。閉鎖が続く国内銀行は近く営業を再開する見通しだが、代償として厳しい財政再建策を受け入れたことで、市民生活はさらなる困窮を強いられそうだ。
「これでまた仕事を始められる」。オリーブオイル輸出会社の男性社長、アンジェライキス・セニストクレスさん(60)は顔をほころばせた。
先月末以降、資本規制の影響で口座の金が動かせずに会社の業務は完全にストップ。それだけに銀行の営業再開を待ち切れない様子だ。ただ「異常事態が少しましになるだけ。多すぎる公務員を抱えた非効率な行政など、この国には多くの課題が残っている」と顔を引き締めた。
支援協議合意のニュースが伝わった13日昼も、アテネ市内の現金自動預払機(ATM)前には多くの利用者が並ぶ光景が見られ、浮かない顔の市民も多かった。
紳士服店を経営するキリヤジス・ニコスさん(43)は「例年ならこの時期は年間売り上げの3分の1を占める書き入れ時なんだけど」とため息をついた。資本規制はサマーセールを直撃し、売り上げは激減した。今後は増税や年金給付の抑制が待ち受けており、客足がさらに遠のくのは確実だ。「銀行が開いても、今は客も金を使おうという雰囲気ではない」。ニコスさんはつぶやいた。
支援協議の中で強硬姿勢をとり続けたドイツに対するギリシャの市民感情も一段と悪化した。「ドイツにはこう言いたい。もうたくさんだ」。今後も厳しい交渉が続くが、大きな禍根を残しそうだ。(共同/SANKEI EXPRESS)