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経済
「東芝、組織的な不正」第三者委結論 行き過ぎた利益至上主義 経営陣の対立も
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東芝本社が入るビル。かつてはおっとりした社風だったが、ここ3代の社長で利益至上主義がはびこるようになったとされる=2010年3月、東京都港区(共同) 東芝の不適切会計問題を調査している第三者委員会(委員長・上田広一元東京高検検事長)は20日、会社側に報告書を提出した。第三者委は、過去5年間の営業利益の過大計上額が1600億円規模に上るとした上で、経営トップが不適切な会計処理を促し、幅広い分野で「組織的な不正」が行われていたと盛り込んだもようだ。
田中久雄社長(64)が21日に記者会見して辞意を表明する見通しのほか、問題にかかわったとされる前社長の佐々木則夫副会長(66)も辞任する方向だ。東芝は経営陣の大幅刷新を含めた抜本的な出直しを迫られる。
第三者委のこれまでの調査では、不適切会計が社会インフラ、半導体、パソコン、テレビなど主要事業のほぼすべてで行われていたことが判明した。
社会インフラ事業では、次世代電力計(スマートメーター)や高速道路のETCの案件などで、受注時に損失が見込まれていたのにもかかわらず、適切に計上しなかったとされる。半導体事業では、価格下落などに伴う在庫の評価損を不適切に計上。パソコン事業では製造委託先への部品販売で利益を過大計上し、テレビ事業でも販売促進費や広告宣伝費の計上を先送りしていた疑いが指摘された。
不適切な会計処理の背景には、佐々木、田中両氏の2代の社長が月例の報告会やメールなどで幹部に厳しく予算の達成を迫り、会計や業務に問題がないかチェックする「監査委員会」(委員長・久保誠元副社長)などによる内部監査も機能していなかったことなども明らかになった。
不適切会計をめぐっては、営業利益の減額修正に伴い、工場や設備の収益性が下がることになるため、東芝の最終利益での減額修正は総額で1000億円超となる可能性もある。
≪行き過ぎた利益至上主義 経営陣の対立も≫
不適切会計問題を生んだ背景には、行き過ぎた「利益至上主義」と、経営陣の対立があったとされる。
第三者委は5月から調査を始め、数百人の関係者から聞き取りを行ってきた。
その過程で、複数の関係者から、当時の社長だった佐々木則夫副会長が月例の報告会で部下に無理に利益を上げるよう指示していたとの証言を得た。また、田中久雄社長が部下に対し、利益のかさ上げを指示していたメールも確認したという。その結果、経営トップが各事業部に圧力をかけ、部下が不適切な会計処理を知りながら行っていた構図があったと認定することに至ったようだ。
佐々木、田中両氏が利益至上主義に走ったのは、西田厚聡(あつとし)相談役(71)の存在があったとしている。東芝の関係者は「佐々木氏が社長に就任した時期から不適切な会計処理が横行していた」と証言している。佐々木副会長は2009年6月、リーマン・ショックで大幅赤字を計上した西田氏の後任社長に就任した。会長に就いた西田氏は、赤字からの脱却に向けて佐々木氏に業績向上を強く求め、経営への不満を公然と口にしていた。
これに佐々木氏は反発。同時に西田氏に批判されないだけの実績を残そうと、現場への圧力を強めていった。さらに11年3月に東日本大震災が発生し、主力事業の原発が止まり、業績向上の圧力を一段とかけるようになったという。
佐々木氏の後任になった田中氏は、西田氏寄りといわれてきた。田中氏は、西田氏の意に沿おうとする形で、高い経営目標を掲げ、現場への圧力を強めた。やることは結局、佐々木氏と同じだった。こういう背景から、社内には、佐々木、田中両氏だけでなく、西田氏の責任を問う声も上がっている。
≪刑事事件化、可能性低く≫
過大計上額が約1600億円に上り、旧経営陣が刑事責任を問われたカネボウの粉飾額約2000億円に迫る規模となった東芝。だが、現段階では悪意をもって市場を欺こうとした背景事情も見えてこず、処分は金融庁による課徴金納付命令などの行政処分にとどまり、刑事事件化の可能性は低いとみられている。
今回のような不適切会計の場合、証券取引等監視委員会はまず課徴金などの行政処分の可否について検討し、さらに刑事処分の必要があると判断した場合、検察当局に告発する。過去の事例をみると、経営陣らの刑事責任が問われたのは、事実上の倒産企業の隠蔽(いんぺい)行為や赤字を黒字に装うなど市場を欺く意図が明確な場合が多い。
2005年に摘発されたカネボウの粉飾決算事件でも、経営破綻回避のための巨額の「赤黒転換」が指弾された。06年のライブドア事件では粉飾額は数十億円規模だったが、赤黒転換に加え、自社株の時価総額拡大のため違法行為を繰り返して市場を欺いた点が重視された。
12年のオリンパスの粉飾決算事件ではバブル崩壊で抱えた多額の損失を10年以上にわたり、連結対象外のファンドに移し替える「飛ばし」という手口で隠した悪質性が問われた。(SANKEI EXPRESS)