「長い間、外国人コンプレックスがあったと思います。学生時代からバックパックでアジアをよく旅しましたけど、旅先で会う外国人とうまくコミニケーションがとれませんでした。日本人と日本語で喋る時のような自分を出し切れていない、と」
東京を拠点に仕事をする建築家・芦沢啓治さん(39歳)はミラノのバールでビールを飲みながら語りだした。
外国人を前にしたときの何とも言えない精神状況を克服したいとずっと思っていた。留学経験はない。サラリーマンではないから駐在の可能性もない。だから旅に出た時はなるべく外国人と一緒になり、彼らの行動パターンを見よう見まねで学んだ。特にユダヤ人からは多くを得た。
そうして今、異文化を相手に仕事をしている。建築設計クライアントの半分は外国人。デンマークの家具ブランドやフランスやオーストラリアのデザインギャラリーともつきあっている。来年欧州の大手メーカーからも彼のデザインした商品が発表される予定だ。一方で震災以降、「地域のものづくりのための場」として活動する石巻工房の代表である。この活動は昨年度グッドデザイン賞も受賞した。
八面六臂の活躍だ。
「34歳の時です。ミラノのサテリテにブースを出そうと決意したのは。すでに様々な海外の展示会には出していましたが、個人での出展ははじめてでした。もちろんデザイナーとして世界との距離を知りたかったのですが、コンプレックスの克服もあったと思います」
外国人の前に出た途端にまるで子供のようにしかふるまえない自分が嫌でたまらなかった。