溶けるように軟らかくほんのりと甘みが広がる霜降り肉-。国産高級肉の代名詞だが、東京・浅草にある老舗すき焼き店がこのほど、店内のメニューから「霜降肉」の表記をやめた。背景にあるのは、脂肪の割合が高いほど高級とされる風潮に、歯止めをかけたいという店主の思い。和牛価格の高値が続く中、“霜降り信仰”に一石を投じそうだ。(村島有紀)
「適サシ肉」に変更
東京・浅草にある創業130年以上の老舗すき焼き店「ちんや」は1月から、メニューにあるすき焼きやしゃぶしゃぶの「霜降肉」の表記を「適サシ肉」に変えた。適度にサシ(脂肪)が入っているという意味の造語だ。同店の住吉史彦社長は「脂肪の割合が非常に高い霜降り肉が、この10~15年で増えた。うちでは、そのような肉は出していないという意思表示」と理由を話す。
牛肉の等級は、歩留(ぶどまり)(使用できる肉の割合)を示す「A」「B」「C」と、肉質を示す「5」~「1」の組み合わせにより15段階に分かれる。「A5」が最高ランクで価格も高い傾向にある。しかし、「ちんや」が提供するのは、その1ランク下の「A4」だ。「A5の中には見た目はきれいだが、脂の量が非常に多く、胃もたれを生じさせるような肉も交じっている。それよりも脂肪の割合が低く、脂の質の良い肉がうちの店には合う」と住吉社長は指摘する。