【本の話をしよう】
ベージュ色で、ぶかぶかのスーツに身を包んだデヴィッド・バーンが、リズムボックス代わりのラジカセを持ってステージの中央に現れる。足元は白いキャンバス地のデッキシューズだ。彼はおもむろにプレイボタンを押す。シンプルできしんだ16ビートが聴こえてくる。名曲『サイコキラー』のはじまりである。
腰と内臓に直接響く
これはトーキング・ヘッズが1983~84年に行ったライブツアーの様子を、のちに『羊たちの沈黙』で知られることになるジョナサン・デミ監督が撮ったドキュメンタリー映画『STOP MAKING SENSE』(※1)の冒頭だ。日本語でいうと「意味を求めることなんて、やめてしまえ」というところだろうか。
10代の後半、トーキング・ヘッズのやることなすこと全てが格好よく見えていた僕は、花屋のアルバイト(かわいらしい花でなく、葬儀の供花の方が多かった)で稼いだお金を握りしめ、大きな肩パットの入ったぶかぶかシルエットのコム・デ・ギャルソンのジャケットを買いに出掛けた。バーンが着ていたのはもちろん特注だったと思うけれど。