さらに4月の賃金上昇率の前年同月比2.2%も、リーマン・ショック前の水準である3%台には及ばない。労働経済学者としての実績でも知られるイエレン氏にとって、景気回復の恩恵が労働者の生活改善に結びついていない実態は無視できないものだろう。
またドル高基調や原油安が物価を引き下げている事態も見逃せない。2月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年比0.33%増で、目標とする2%からはほど遠いのが現状だ。エネルギーと食料品を除いたコアでも1.37%増で、物価上昇率が2%に近づくと判断できる「合理的な確信」が得られているとは言い難い。
FRBは米国経済が中期的には1~3月期の低迷から抜け出していくというシナリオを描いており、4月の雇用統計の好調さや4~6月期の成長率への回復期待はそうしたシナリオと一致しているといえる。ただし利上げ開始に至るまでは数多くのハードルが残っていることも事実で、利上げ開始時期をめぐるイエレン氏の悩みは今後も深くなりそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)