海水や海砂を使う高強度コンクリートの開発に成功した大林組の金井誠副社長=東京都清瀬市の同社技術研究所【拡大】
この日、練り混ぜ水に海水を利用して作ったコンクリート製の消波ブロックの実証実験が、津波の甚大な被害を受けた福島県相馬市の相馬港で行われ、性能の高さが無事確認された。結果はすぐに金井に報告された。
土木関連の実務者にとって大林組が手にした技術は、まさに「信じられない」ような画期的な出来事だった。
うなぎ上りでインフラ需要が伸びた高度成長期にコンクリートの供給を急ぐ余り、海砂を洗わず骨材として使ったケースが一部であった。数十年を経て、山陽新幹線の高架などに使われたコンクリートが鉄筋のさびで膨張し、剥落(はくらく)するといった「コンクリートクライシス」が西日本で1980年代に多発。以降、コンクリート中に塩分の混入を試す研究は封印されてしまう。
大林組はなぜ、業界で「非常識」とされてきた海水を使う決心をしたのか。時は、金井が土木本部長に就いた2007年にさかのぼる。