台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業による総額3888億円の出資が完了した段階で、経営再建中のシャープから高橋興三社長が去る。液晶事業への過剰投資で経営危機に陥る中、平成25年に社長就任。社内改革を期待され、最初の年こそV字回復の道筋をつけたかのように見えた。だが、創業100年の関西の名門家電メーカーは外資の手に渡る。その結果を見るだけで高橋氏を単純に評価することはできない。高橋体制の3年間は波乱に満ち、その足跡をたどると先の見えない「会社経営」の難しさをうかがえる。「社長がこんなにしんどいとは思わなかった」。就任直後につぶやいた一言が思い起こされる。(織田淳嗣)
最初は気迫に満ちていた
「ご心配なく、『サラリーマン役員』はここから去ることになります」
6月23日、大阪市西区のオリックス劇場で行われたシャープの株主総会。厳しい質問が相次ぎ、高橋社長自ら自虐的にこう言い放った。「サラリーマン社長では再建できない」という株主の指摘に対する答弁だった。会場にはかすかに乾いた笑いが起きたが、すぐに静まりかえった。
高橋氏が議長を務める最後の株主総会で、株主からの風当たりは当然のごとく厳しいものだった。ただやり過ごすばかりの高橋氏の顔は幾分むくんでいるようで、就任した3年前の精悍(せいかん)さはうかがえなかった。