10ミリシーベルト超える自然放射線
低線量の放射線被ばくの健康影響に関して最近注目を集めているのが、インド南西端に位置するアラビア海に面したケララ州カルナガパリ地区で実施された疫学調査の結果だ。同地区は海岸一帯に放射性物質を含んだ「モナザイト」と呼ばれる鉱物が混ざった黒い砂浜が広がり、地域の住民の中には日本より数倍高い年間10ミリシーベルト超という自然放射線を大地から受けている人もいる。
放射線が人体におよぼす影響について、高線量の放射線に関しては多くの疫学的知見が得られている。広島、長崎の原爆被ばく者12万人を対象とした疫学調査では、100ミリシーベルトを超える被ばくにより、リスクが有意に上昇するという結果が得られている。このデータは国際放射線防護委員会(ICRP)のリスク評価の基礎となっており、「100ミリシーベルトを超える放射線を被ばくすると、被ばくしない場合と比べ、がんによる死亡率が0.5%程度増える」といった内容だ。
では、100ミリシーベルト未満の低線量の被ばくによる健康への影響はどうなのか。これについては、放射線によるリスクが、喫煙や飲酒など個人の生活習慣によって、がんになるリスクと明確に区別できないほど小さいため、不明な点も多く、はっきりと解明できていないのが現状だ。原爆被爆者は一瞬の急性被ばくであり、長崎、広島の知見をそのまま当てはめるわけにはいかない。その意味で、高自然放射線地域の疫学調査は重要な意義を持っている。