≪夕日の残照が語る 大河の目覚め≫
川辺を散歩しているうちに村からエンジンの音が響いてきた。知り合いのヤーシャがブランと呼ばれるロシア製のスノーモービルで川に下りてきたのだ。対岸の林まで薪を集めにいくという。猟師の父を冬のスノーモービルの事故で亡くし、今では母のアンナを支える家族の大黒柱だ。
村では狩猟組合が燃料用の材木を調達して各家庭に払い下げる仕組みになっている。だが、それからのまき割りはひと苦労だし、不足の際は自力で薪を集めるのが男の仕事だ。ここでは室内のペチカやバーニャと呼ばれるロシア式サウナの燃料となる薪が欠かせない。
「日本製のエンジンプラグを探しているんだが、帰ったら同じものがあるか見てきてくれないか」とヤーシャはいって、道具箱から古いプラグを取り出した。
川で使う船外機や悪路をこなす車。厳しい環境で酷使される道具に関して、今も日本製品の信頼は高い。村には日本で流行の通信販売はないから、こんな人づての調達が結構大事なのだ。息の長い宅配便である。次の旅までに探し出してお土産にしよう。僕は小さなプラグの重みを感じながらポケットに入れた。