「当時、桜餅は庶民的なお菓子で(虎屋では)作っていなかった。桜餅というと桜型のお餅のことでした」と浅田ひろみ文化事業課長が教えてくれた。いずれにしても、江戸の庶民から生まれた桜餅は虎屋が東京に移ってからおそらく取り入れられたもの。だから、虎屋の桜餅は関東風…ということだろう。
あの文豪も愛した「美術品」
さて、4月は虎屋も桜尽くし。濃いピンク色があでやかな「奈良の都」は、東大寺にある国の天然記念物「ナラノヤエザクラ」をかたどったものだ。虎屋では羊羹(ようかん)製と呼ぶが、一般のこなしに近い味わいで、中は白あん。遅咲きの花の見頃(4月下旬~)に合わせ、4月から販売される。
もう一つ、虎屋といえばはずせないのが羊羹である。なにしろ、夏目漱石が「あの肌合いが滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ」(「草枕」より)とたたえ、谷崎潤一郎も「あの色合いの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない」(「陰翳礼讃」より)と絶賛しているのだから。