ハチ自体も丹念に見ないと区別は難しい。
「どの巣が野生ミツバチの巣か分かるのか?」
野口に聞くと「僕も見たことがない。とにかくきれいなレモンイエローが目印らしい」という答えが返ってきた。
≪色や形に魅了され…覚悟決めた≫
翌朝。村を出る前、いつもお世話になっている猟師組合長のお父さんであるアルカディア・イゴールビッチを訪ねた。村はずれの組合長の家は畑や雑木林に囲まれ、馬が飼われている。緩やかな小川が裏を流れ、水面をのぞくと小魚の群が輝いている。北海道の自宅周辺によく似たのどかな風景だ。
「野生のミツバチの巣があると聞いて見に来たのですが」
イゴールに尋ねると、
「ああ、あるよ。でも見にいくなら着替えないとな」と言ってゆっくり椅子から立ち上がった。着替える? 一瞬疑問がわいたが「あんた、頭にかぶる網はあるか」と聞かれてわかった。巣箱を開けると当然、ハチたちが興奮して出てくるので防御のためだ。僕も用意していた虫よけネットを頭から被って彼についていった。