『野のなななのか』なる映画はともすると何やら捉えどころのない物語に、メッセージがぐいと前に押し出されていると思う人もあるかもしれないが、ひとつ常識というつまらないネジを緩めてみると、たちまち幻想の視点に誘ってくれる。その場所から眺める人びとや北海道の芦別なる街の風景は現実以上に鮮やかだ。
おそらくこの映画のことが頭から離れないゆえに、今朝の陽炎(かげろう)のようなロスのゆらめきに、「死」のまといを感じ取ったのかもわからない。理屈を越えた目玉が鮮度を失わないうちに、日々の営みに漫然と呑み込まれぬうちに在りたいものだなあと思いつつ、それでも「生」をまとったロスの来訪を、明日の朝、静かに待ってみようか。(演出家 長塚圭史/SANKEI EXPRESS)
■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。ロンドン留学を経て、新プロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げた。9月に葛河思潮社の第4回公演『背信』(ハロルド・ピンター作、喜志哲雄翻訳、長塚圭史演出)を上演予定。出演は松雪泰子、田中哲司、長塚圭史。