91年3月にはソ連構成15カ国中9カ国で国民投票が行われ、連邦制維持への賛成票が8割近くを占めた。にもかかわらず、年末にソ連が崩壊した際に抗議デモが起きることはなかった。「最低限の生活が皆に保障され、安定と秩序があった」などとソ連時代を肯定的にとらえる層は現在も明らかに存在する。その半面、近年のロシアでは外国人労働者の流入などに反発し、ロシア民族主義が着実に伸長している現実がある。
ソ連崩壊後のロシア人は「自分は何者なのか」というアイデンティティー・クライシス(自己喪失)の状態にある。今後数年間でロシアの多数派が「ソ連再興」と「民族主義」という振幅のどこに自らの居場所を求めるか-それによってこの国の形が決まってくるだろう。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS)