【本の話をしよう】
向田邦子賞と岸田國士戯曲賞をダブル受賞した映像・演劇界の奇才、岩井秀人(ひでと)さん(40)が、「ヒッキー・カンクーントルネード」で小説家デビューを果たした。自身が主宰する劇団の旗揚げ作でもある同名の戯曲を、小説という新たな視点で再構成した。
「最初に編集者から小説執筆の話をもらったとき、『責任取れないですよ』って言ったんです。そもそも僕、全く本も読まないし…」。演劇、映像と2つのメディアで活躍するが、小説には自身の中でハードルがあったという。「強烈な文体を確立していないとダメだ、と思っていて。でも、『エッセーみたいな調子でいいんですよ』と言われて、それなら自然に書けるかな…って」
「新作を書くより、今まで愛されてきた作品を繰り返し上演したいタイプ」と語る自身が、初題材に選んだのは、処女作にして代表作の戯曲だ(2003年初演)。プロレスラーに憧れている引きこもりの登美男は、妹だけが唯一の理解者。ある日、登美男の将来を案じた母が、引きこもりを治す“出張お兄さん”なる青年を家に連れてくるが…。16歳から4年間引きこもっていたという自身の経験をもとにした、思い入れの強い作品だ。