今回の小説では、戯曲では表現しにくかった登美男や妹、母親の思考が独特のリズミカルな文体で展開される。「ニコニコ笑ってても心の中では違うことを考えているというのを表現するのは、演劇ではできないこともないけれど、あざとくなってしまう。小説では直接心の中にすっと入っていける。あと、関係ない風景の描写をふっと挿入できたり、すごく自由だなと感じました。そこにたどり着くまでにはずいぶんもがきましたけど…」
気になるのは小説家としての次回作だが…。「小説にはすごくルールがあるような気がしていたんだけど、とにかくワーッと書いちゃえばいいんだって気づいた。最初に抱いていたようなおっかなさは、減らせたかな」。もっと自由に。奇才の新たな冒険が楽しみだ。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
■いわい・ひでと 1974年、東京都生まれ。劇団ハイバイ主宰。脚本・演出・俳優として数多くの舞台作品に携わる傍ら、テレビや映画など映像分野でも活躍。2012年「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞受賞、翌年劇団公演「ある女」にて、初ノミネートで第57回岸田國士戯曲賞受賞。
「ヒッキー・カンクーントルネード」(岩井秀人著/河出書房新社、1512円)