8月初めのうだるような暑さの中でも、海から吹く夕風は涼しい。藤沢行きの江ノ電を腰越駅(こしごええき)で降り、踏切を渡る。その先の商店街は、道の真ん中に単線の線路が敷かれ、ガタゴトと電車が走り抜ける。
鎌倉と藤沢の市境の藤沢市側にある龍口寺(りゅうこうじ)には江ノ島駅で降りた方が近い。
だが、夏の夕風に吹かれながら漁師町の風情を残す商店街を歩く。タイムスリップのようなこのぜいたくは捨てがたい。
日蓮宗寂光山龍口寺の境内は土曜日の8月2日夕、3000基の竹灯籠がともされ、たくさんの人がお参りに訪れていた。
鎌倉時代の1271(文永8)年、幕府は日蓮上人を捕らえ、斬首の刑に処そうとした。ところが、江ノ島方面からの光で討手の太刀が折れるなど怪異現象が起き、処刑は中止された。「龍ノ口の法難」として伝わるその伝承の地に建立された龍口寺は、神奈川県内唯一の五重の塔があるお寺としても知られている。
毎年夏になると江ノ島では亡くなった人の供養に灯籠流しが行われていた。龍口寺の龍の口竹灯籠は、その灯籠流しにかわり4年前に始められたという。