エマ(松雪泰子)とジェリー(田中哲司)は、互いに家庭を持ちながらも、午後に愛し合う関係を続けてきた。ジェリーの親友であり、エマの夫であるロバート(私)はこのことを知らずにいるのだろうか。写真は現在上演中の「背信」の一場面。ふたりの午後=2014年9月7日(篠山紀信さん撮影、提供写真)【拡大】
全く馴染(なじ)みのない、私の記憶にないものだらけの物に囲まれたこの場所で、記憶体としての彼女が輝く。彼にそのことを微塵(みじん)も気取られてはならない。私は上手にやる。彼女も上手にやる。彼女のことを知らないことにして話すので、私の記憶は千々に乱れる。おそらく彼女もそうだ。しかしハッキリと言ってしまえれば、それはそれで真実となる。ねじ曲げられ、捏造(ねつぞう)された過去も、ハッキリと言ってしまえば限りなく真実に近づく。私たちは未来へ進むゆえ、過去については折り合いをつけて、記憶を薄めたり改竄(かいざん)したりなくしたり付け足したりしながら進んでゆく。こうして彼と彼女と私と子供たちは笑い合いながら夜を過ごす。そして私は知らずにいる。私と彼女の関係を、彼はハッキリ知っているということを。だとすると彼女はどこまで知っていたのだ。